東京科学大、レアアースも磁石も不要な「強誘電モーター」の駆動実証に世界初成功
東京科学大、レアアースも磁石も不要な「強誘電モーター」の駆動実証に世界初成功 この成果の鍵を握るのは、これまで物理学の世界で「弱すぎて実用化は不可能」と見なされ、100年以上にわたって見過ごされてきた「 横方向静電力(Transverse Electrostatic Force: TEF)
この成果の鍵を握るのは、これまで物理学の世界で「弱すぎて実用化は不可能」と見なされ、100年以上にわたって見過ごされてきた「横方向静電力(Transverse Electrostatic Force: TEF)」と呼ばれる静電気の力である。研究チームは、「強誘電ネマチック液晶」という特殊な有機材料を用いることで、この力を従来の1,000倍以上に増幅し、肉眼ではっきりと確認できるレベルで可視化することに成功した。
電磁力への依存と「静電気」による駆動という叶わぬ夢
見過ごされてきたMaxwell応力の「横成分」
電界に垂直方向に働く静電力TEFを利用した強誘電モータの概念図 (Credit: 東京科学大学)
この電極間に生じる静電気の力は、19世紀の物理学者James Clerk Maxwellによって体系化された「Maxwell応力(Maxwell stress)」という物理量によって記述される。Maxwell応力は複雑なテンソル(多方向の成分を持つ量)であり、電場と平行に働く「引力(Attractive force)」だけでなく、実は電場と垂直な方向に働く「斥力(Repulsive force)」すなわち物質を横方向に押し出そうとする力も同時に発生させている。これが「横方向静電力(TEF)」である。
強誘電ネマチック液晶:100年の常識を打ち破る「奇跡の流体」
この「弱すぎて使い物にならない」という物理学の常識を覆したのが、2017年に相次いで発見された「強誘電ネマチック液晶(Ferroelectric nematic liquid crystals)」という革新的な材料である。
重力に逆らい上昇する液体:TEFの肉眼観測と定量化
詳細な偏波(分極)解析の結果、これは電場をかけることで流体の中の分子が秩序立って整列し、微小な「極性シボタクチック・クラスター(polar cybotactic clusters)」と呼ばれる秩序の塊が形成・成長していくプロセスを反映していることが判明した。電場という外部からの指示によって、バラバラだった分子たちが一斉に同じ方向を向き、強烈な極性の波を作り出す。その結果として生み出されるTEFは、1ミリメートルあたり30V(30 V/mm)の電場下において、約1,000 N/m 2 という、通常の物質の1,000倍以上に達する驚異的な圧力を叩き出したのである。
磁石も金属も不要:全プラスチック製ローターの回転実証
新世代強誘電モーターがもたらす未来と社会的インパクト
第一に、重要鉱物資源からの完全な脱却である。強誘電モーターは、ネオジムなどのレアアースも、大量の銅も必要としない。媒体として使用される強誘電ネマチック液晶は、炭素や水素、酸素、窒素などからなる有機物であり、自然界に豊富に存在する元素から合成できる。資源制約の厳しい日本にとって、地政学的リスクを根本から回避できる次世代の国産動力源として、経済安全保障上の極めて強力な切り札となる。
第二に、圧倒的な軽量化と低慣性化である。重い磁石や金属ローターが不要で、主要部品をプラスチックなどの軽量な樹脂で構成できるため、モーター全体の重量を劇的に軽くできる。回転部が軽いため、動き出しや停止のレスポンス(応答性)が極めて速くなる。この特性は、俊敏な動きが求められるヒューマノイドロボットの関節、ドローンなどの飛行体、あるいはウェアラブルデバイスや精密光学機器のアクチュエーターとして理想的である。
第三に、磁気ノイズフリーと高い安全性である。磁場を全く発生させないため、強力な磁気を嫌うMRIなどの高度医療機器の内部や、ハードディスクなどのデータストレージ周辺など、従来のモーターが使えなかった環境でも安全に使用できる。また、従来の静電モーターが数千ボルトを必要としたのに対し、数十ボルトという低電圧で駆動できるため、感電や火災のリスクが劇的に低下し、家庭用機器への組み込みも現実的なものとなる。
今後の展望
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- Communications Engineering: Huge transverse Maxwell stress in ferroelectric fluids and prototyping of new ferroelectric motors