徒然草 現代語訳つき朗読
ContenText
しのぶの浦の蜑の見るめも所せく、くらぶの山も守(も)る人繁からんに、わりなく通はん心の色こそ、浅からず、あはれと思ふふしぶしの、忘れがたきことも多からめ、親・はらから許して、ひたふるに迎へ据ゑたらん、いとまばゆかりぬべし。
世にあり侘ぶる女の、似げなき老法師、あやしの吾妻人(あづまびと)なりとも、にぎははしきにつきて、「さそふ水あらば」など言ふを、仲人(なこうど)、何方(いづかた)も心にくきさまに言ひなして、知られず、知らぬ人を迎へもて来たらんあいなさよ。何事をかうちいづる言の葉にせん。年月のつらさをも、「分けこし葉山の」などもあひ語らはんこそ、尽きせぬ言の葉にてもあらめ。
すべて、余所(よそ)の人の取りまかなひたらん、うたて心づきなき事多かるべし。よき女ならんにつけても、品くだり、見にくく、年も長(た)けなん男(おとこ)は、かくあやしき身のために、あたら、身をいたづらになさんやはと、人も心劣りせられ、わが身は、向ひゐたらんも、影はづかしく覚えなん、いとこそあいなからめ。
梅の花かうばしき夜(よ)の朧月(おぼろづき)にたたずみ、御垣(みかき)が原の露分け出(い)でん有明の月も、わが身さまに偲ばるべくもなからん人は、ただ色好まざらんにはしかじ。
口語訳 語句■しのぶの浦の蜑の見るめ 「しのぶの浦の蜑の」までが「見るめ」を導く序言葉。しのぶの浦は陸奥の歌枕。「信夫」は福島県信夫郡。海が無いので「しのぶの浦」はありえないが、地方の地理に疎い都人が想像だけで言葉を作ったためか。「みるめ」は「海藻」という意味の「海松布」と「見る目」を掛ける。「蜑」は漁師。「うちはへて苦しきものは人目のみしのぶの浦の海人(あま)のたく縄」(『新古今』恋二 二条院讃岐)をふまえる。 ■所せく わづらわしく。 ■くらぶの山 鞍馬山のことかと考えられるが不明。「暗い」の意味を掛ける。 ■守る人繁からんに 女を見守る人が多いのに。『伊勢物語』関守の雰囲気がある。 ■わりなく 無理をして。 ■心の色 心のさま。恋の話であるから色という語を用いた。 ■ふしぶし 時々。 ■ひたふるに 心のおもむくに任せて。衝動のままに。 ■まばゆかりぬべし きまり悪い。 ■世にあり侘ぶる女 生活に困っている女。 ■にぎははしき 裕福な者。 ■さそふ水あらば 誘ってくださるならばの意。文屋康秀の誘いに対して小野小町が答えた歌「わびぬれば身を浮草の根を絶えて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ」(『古今』雑下)をふまえる。 ■心にくきさまに 奥ゆかしいふうに。 ■あいなさよ 味気ないことだ。 ■分けこし葉山の 「筑波山は山しげ山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり」(『新古今』恋一 源重之)。恋の情熱によって、は山もしげ山も繁っていますが、あなたへの想いのさしさわりにはなりませんの意。 ■うたて なんとも。 ■心づきなき事 不愉快な事。 ■品くだり 身分が低く。 ■梅の花かうばしき夜の朧月にたたずみ 春の夜、女のもとに色好みの男が通う場面。『伊勢物語』第四段、『源氏物語』末摘花などを念頭に置いたか。 ■御垣が原の露分けて出ん有明の空も 「御垣」は宮中。または貴族の館の築垣の内側。「原」は広々したさまを述べた。「一日(ひとひ)、風にさそはれて、御垣の原を分け入りて侍りしに」(『源氏物語』若菜上)。柏木が女三宮をかいま見て恋心におそわれ、一日悩んだ挙句みかきが原を分け入って恋文を贈る場面。 ■わが身さま 自分の身の上のこととして。
メモ■要約すると見合いはつまらん。ブサイクは恋愛するな。 ■うちはへて苦しきものは人目のみしのぶの浦の海人(あま)のたく縄 ■わびぬれば身を浮草の根を絶えて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ ■筑波山は山しげ山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり ■源氏物語。柏木が女三宮をかいま見て恋心におそわれ、一日悩んだ挙句みかきが原を分け入って恋文を贈る場面。
徒然草 全二百四十三段 全243段を「原文」と「現代語訳」で朗読し、「解説」。
百人一首 全首・全歌人 徹底解説 歌の解説はもちろん、歌人の人物・歌人同士の人間関係・歴史的背景など、さまざまな角度から解説。
- 左大臣光永の歴史と文学の旅
- メルマガ「左大臣の古典・歴史解説」
- ショップ「左大臣どっとこむ」
- 『源氏物語』原文・現代語訳・朗読
- 『平家物語』 原文・現代語訳・解説・朗読
- 『東海道中膝栗毛』原文・現代語訳・朗読
- 『方丈記』 原文・現代語訳・解説・朗読
- 年中行事 解説 音声つき
- 日本の歴史 解説音声つき
- 新選組 解説音声つき
- 漢詩の朗読
- 『宇治拾遺物語』 原文・現代語訳・解説・朗読
- 小倉百人一首 音声付
- 『徒然草』 現代語訳つき朗読
- 『竹取物語』 現代語訳つき朗読
- 『土佐日記』 現代語訳つき朗読
- 『雨月物語』 現代語訳つき朗読
- 『奥の細道』 朗読
- 『伊勢物語』 全章徹底詳細解読
- 『更級日記』 現代語訳・朗読つき 全篇徹底解読
- 読む・聴く 日本神話
- 読む・聴く 昔話
- 世阿弥『風姿花伝』現代語訳つき朗読
- 朗読 平家物語(旧)
- 聴いて・わかる。平家物語
- 論語の名言 音声付
- 孫子の兵法 音声付
- 北原白秋 朗読
- 『野ざらし紀行』 全篇詳細解読 音声つき
- 『鹿島詣』 全篇詳細解読 音声つき
- 『笈の小文』 全篇詳細解読 音声つき
- 『更級紀行』 全篇詳細解読 音声つき
- 『幻住庵記』 全篇詳細解読 音声つき
- 『嵯峨日記』 全篇詳細解読 音声つき
当サイトで使用している音声・画像および文章は 左大臣プロジェクト運営委員会および左大臣光永が著作権を所有・管理しております。(C) 2012 Sirdaizine Inc. All rights reserved.