雪の空港ではデアイシングカー(除雪車)が大活躍【よくわかる防除氷の話】
ポトマック川の悲劇飛行機の翼やセンサー類に付着した雪(氷)が原因で墜落した事故は結構たくさんあります。有名なのはワシントンD.C.のロナルドレーガン空港(DCA)を離陸した直後、ポトマック川に墜ちたエアフロリダ90便737の事故でしょう。エア・フロリダ90便墜落事故 - Wikipediaエアフロリダの737は除雪をして離陸しようとしたのですが、離陸の順番待ちに時間を要し、再び翼に雪が積もってしまいました。それに加え、トーイングカーの故障により逆噴射でバックした際に巻き上げた雪や、前にいた飛行機の排気を浴びて溶けた雪が再度氷結したこと、さらに防氷装置をOFFにしてしまったことなどの要因が重なり…
エアフロリダの737は除雪をして離陸しようとしたのですが、離陸の順番待ちに時間を要し、再び翼に雪が積もってしまいました。それに加え、トーイングカーの故障により逆噴射でバックした際に巻き上げた雪や、前にいた飛行機の排気を浴びて溶けた雪が再度氷結したこと、さらに防氷装置をOFFにしてしまったことなどの要因が重なり、 737の翼は複雑に氷結して翼としての性能を発揮できなくなっていました。 翼は表面が滑らかでないと揚力が出ません。事故機は離陸直後に失速してそのまま川に墜落してしまったのです。
他にも計器類の不具合(原因は雪)があるのですが、最も大きな要因は翼に付着した雪や氷でした(氷結に対するクルーの不理解も原因)。 翼にとって雪や氷は大敵である と言うことを知らしめてくれた悲劇でした。
雪の日はデアイシングカーが大活躍
2018年1月25日のセントレアには雪が積もりました。ナイトステイをしていた飛行機にも雪が積もります。高所作業車みたいな車。そう、それが 雪の日の空港で活躍するデアイシングカー です。この車を使って翼に積もった雪を解かし、再び雪が積もらない(凍らない)ようにしてから出発します。
除氷したあとに防氷する
まず 「除氷(除雪)」と「防氷」は違います。 除氷は氷を取り除くこと、防氷は氷が付くのを防ぐことです。英語で言うと、 「除氷」は「de-ice(デアイス)」、「防氷」は「anti-ice(アンチアイス)」 です。
まず除氷ですが、これには タイプ1(TYPE I)と呼ばれる除氷液 を使います。グリコール液と水を混ぜた液体(調合は気温によって異なる)を高温高圧にして機体や翼面に吹き付け、雪を解かします。サラサラの雪であればブロアー(高圧空気)を吹き付けるだけのときもあります。
続いて防氷。 タイプ4(TYPE IV)と呼ばれる防氷液(同種のグリコール液) を吹き付け、新たに雪(氷)が付かないようにします。ただ、防氷は防水スプレーと同じく 効き目が持続するための制限時間 があります。これを ホールドオーバー時間(15分程度) と呼びます。この時間を過ぎると効果がなくなるため、一度吹き付けても時間が経つと、再び防氷作業が必要になります。
雪が降り続いているときには、飛行機はホールドオーバー時間内に離陸させなければなりません。この時間を超えるとまさにゲームオーバー。再度防氷剤を吹き付けるため、スポットに戻ることもあります。だから 防氷は出発直前に行います。
水平尾翼に雪が積もると、縦の操縦が困難になる ことがあります。機首を上げられなくなったり、下げられなくなったりします。なので、水平尾翼も除氷、防氷は必要です。
ちなみに 胴体の雪は飛行する際の抵抗になるだけ なので、あえて解かさないこともあります。燃費が少し悪くなるくらいのものなのですからね。
しかし翼に積もった雪は絶対に除去しないといけません。冒頭にも書いた通り、翼に雪が積もると十分に揚力が出ず、最悪の場合は墜落することがあるからです。( 多少の雨滴が氷結しただけであれば大丈夫です。雪は翼上面に凹凸を作るからダメなんです。 翼は表面の滑らかさが大事です。)
着氷から身を守る防除氷装置
地上で付着した雪や氷についてはデアイシングカーのような特殊車両が使えますが、飛行中に氷が付着しても誰も助けてくれないため、 飛行機の重要な部分には必ず防除氷装置が付けられています。一般的に防氷装置が付けられている場所でまず思いつくのが機首にあるセンサー類です。 ピトー管、AOAセンサー、TATセンサーなど ですね。それらには 電気式のヒーター が埋め込まれ、管が氷で詰まったり、氷結して動かなくなることを防いでいます。
次に翼。飛行中は速度があるため翼の上面には基本的には着氷しません。しかし空気が止まる 翼の先端には着氷することがある ため、翼の前縁に エンジンからの熱い空気を引き込み 温めて着氷を防いでいます。
エンジンインテーク(エンジンの入口前縁) にも同様の仕組みが付いています。エンジンは揚力の発生とは直接的な関係はありませんが、 エンジンインテークに付着した氷がエンジン内部に吸い込まれブレード(羽根)を損傷する ことがないよう、エンジンからの熱い空気を送り込んでいます。
エンジンから取り込む熱い空気のことを 抽気(ちゅうき/ブリードエア/Bleed Air) と呼びます。エンジン抽気と言うと与圧・空調に使うイメージがありますが、なにせ熱い空気ですので氷を防ぐためにも使っているんですね。
次に尾翼はどうかというと、 水平尾翼、垂直尾翼ともに防氷装置が付けられている飛行機は少ない です。もちろん防氷装置があるに越したことはないのですが、基本的に尾翼は比較的大きく(揚力に余裕をもって)作られているため、そこまでシビアになる必要はないんだと思います。
映画ハッピーフライトでも防氷装置が登場
この防氷装置、実は綾瀬はるか主演の 映画「ハッピーフライト」でも登場していた んですよね。皆さんそこまで真剣に観ていなかったかも知れませんが、僕は「よくできた話だなー」と感心しながら観ていました。あの747はバードストライクにより左側のピトー管2本を折られ、反対側にあるピトー管も防氷系統の故障により氷結し作動しない状態になっていました。つまり、 3系統あるうちの3系統全てが故障 し、ピトー管から得られる圧力が喪失することによって 速度が表示されなくなってしまいました 。(ピトー管は空気の圧力を速度として計測するための装置。)
じゃあどうやって速度が復活し着陸できたのか?それは 防氷装置が故障しているピトー管に詰まった氷が解けたから です。氷結が原因ですので氷が解ける温度になると、ピトー管は復活するわけです。 TAT(全温度)が0℃から1℃になりしばらく経った後、ピトー管(速度)が復活 しました。あのドラマではTATセンサーとピトー管の見事な連携が見られる、エンジニアリング目線でもマニア垂涎のドラマだったのです…。