竹取物語 現代語訳つき朗読
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このことを、帝(みかど)、聞(きこ)しめして、たけとりが家に、御使(おほんつかひ)つかはせたまふ。御使に、たけとりいであひて、泣くことかぎりなし。このことを嘆くに、鬚(ひげ)も白く、腰もかがまり、目もただれにけり。翁、今年(ことし)は五十(いそじ)ばかりなりけれども、物思ひには、かた時になむ、老(お)いになりにけると見ゆ。

御使、仰(おほ)せごととて、翁にいはく、「『いと心苦しく物思ふなるはまことか』と仰せたまふ」。 たけとり、泣く泣く申す。「この十五日になむ、月の都より、かぐや姫の迎へにまうで来(く)なる。尊く問はせたまふ。この十五日は、人々賜(たま)はりて、月の都の人まうで来(こ)ば、捕へさせむ」と申す。

御使、帰り参りて、翁の有様申して、奏しつることども申すを、聞(きこ)しめして、のたまふ、「一目(ひとめ)見たまひし御心(みこころ)にだに忘れたまはぬに、明(あ)け暮(く)れ見慣(みな)れたるかぐや姫をやりて、いかが思ふべき」。

現代語訳 語句

■このことを嘆くに-「このこと」は姫昇天のこと。 ■五十ばかり-「いそ」は五十。「ばかり」は、ぐらい、ほどの意。「ち」は「一つ」、「二つ」の「つ」と同じで、序数詞。翁の年齢は、前の「貴公子たちの求婚」のところは「年七十(ななそじ)に余りぬ」とあって相違している。■もの思ふには-「に」は、時を示す格助詞。この上に「時」を補って訳すとよい。心苦しく-見ているとこちらが心苦しくなる意で、「気の毒に」と訳す。■物思ふなるは-「なる」は伝聞。世間の噂を聞くに、物思うということだがそれはの意。次の「まうで来なる」の「なる」も同じく伝聞。 ■たふとく問わせたまふ-ひとつの慣用表現で、「よくぞ聞いてくださいました」の意。■帰り参りて-「参る」は、宮中に参内する意で、「まかる」の反対語。 ■奏しつることども-翁が帝にといって奏上したことなど、の意。帝には「奏す」、皇后・皇太子には「啓(けい)す」という。■一目見たまひし御心-「たまひ」「御」のように、天皇の場合は、ご自身に尊敬語を用いられる。これを「自称敬語」とか「自尊敬語」と呼ぶ。帝は以前に姫に求婚したため、一度お会いになっていて、ここはそれを「一目見たまひし…」と仰せになっているのである。■やりては-「やる」は行かせる、手放してやるの意。■いかが思ふべき-「いかが…べき」は副詞の呼応。簡単文。

かの十五日、司々(つかさつかさ)に仰(おほ)せて、勅使(ちょくし)、中将高野(ちゅうじゃうたかの)のおほくにという人を指(さ)して、六衛(ろくゑ)の司(つかさ)あはせて、二千人の人を、たけとりが家につかはす。家にまかりて、築地(ついぢ)の上に千人、屋(や)の上に千人、家の人々多かりけるにあはせて、あける隙(ひま)もなく守らす。この守る人々も、弓矢を帯(たい)してをり。屋の内には、媼(おうな)どもを、番(ばん)に下りて守らす。

媼、塗籠(ぬりごめ)の内に、かぐや姫を抱(いだ)かへてをり。翁も、塗籠の戸鎖(さ)して、戸口にをり。翁のいはく、「かばかりまもる所に、天の人にも負けむや」といひて、屋の上にをる人々にいはく、「つゆも、物(もの)、空に駆けらば、ふと射殺(いころ)したまへ」。守る人々のいはく、「かばかりして守る所に、かはほり一つだにあらば、まづ射殺(いころ)して、外にさらさむと思ひはべる」といふ。翁、これを聞きて、たのもしがりをり。

これを聞きて、かぐや姫いふ。「鎖(さ)し籠(こ)めて、守り戦ふべきしたくみをしたりとも、あの国の人をえ戦はぬなり。弓矢して射られじ。かく鎖し籠めてありとも、かの国の人来(こ)ば、みなあきなむとす。あひ戦はむとすとも、かの国の人来(き)なば、猛き心つかふ人も、よもあらじ」。

翁のいうやう、「御迎へに来(こ)む人をば、長き爪して、まなこをつかみつぶさむ。さが髪(かみ)をとりて、かなぐり落とさむ。さが尻(しり)をかきいでて、ここらの朝廷人(おほやけびと)に見せて、恥(はぢ)を見せむ」と腹立ちをり。

かぐや姫のいはく、「声高(こわだか)になのたまひそ。屋の上にをる人どもの聞くに、いとまさなし。いますかりつる心ざしどもを、思ひも知らで、まかりなむずることの口惜しうはべりけり。長き契りのなかりければ、ほどなくまかりぬべきなめりと思ひ、悲しくはべるなり。親たちのかへりみを、いささかだに仕うまつらでまからむ道もやすくもあるまじきに、日ごろも、いでゐて、今年(ことし)ばかりの暇(いとま)を申しつれど、さらにゆるされぬによりてなむ、かく思ひ嘆きはべる。

御心(みこころ)をのみ惑(まと)はして去りなむことの悲しく堪(た)へがたくはべるなり。かの都(みやこ)の人は、いとけうらに、老(お)いをせずなむ。思ふこともなくはべるなり。さる所へまからむずるも、いみじくはべらず。老ひおとろへたるさまを見たてまつらざらむこそ恋しからめ」といへば、翁(おきな)、「胸いたきこと、なのたまひそ。うるはしき姿したる使(つかひ)にも、障(さは)らじ」と、ねたみをり。

現代語訳 語句

■塗籠-周囲を壁で塗り込め、明り取りの窓と出入り口しかない部屋。物置などに用いる。 ■抱かへてをり-「いだく」に上代に使われた継続の助動詞「ふ」がついてできた「いだかふ」だと説かれるが、その「ふ」は四段活用。ここは、下二段型の活用であり、不審。■つゆも-副詞の形。ちょっとでも。 ■かはほり-こうもり(蝙蝠)の古称。

■老いをせずなむ-「老いをせずなむある」の約。■思ふこともなく-物思いもない。悩み事もない。■さる所-「いとけうらに、老いもせず」「思ふこともない」月の都に。■まからむずる-「まからむとする」の略。「まかる」は「行く」の謙譲語。「翁」を尊んだ言い方。■いみじく-たんに程度のはなはだしいことを表す場合が多いが、ここでは、本義に近い、「喜ばしい」「嬉しい」の意。■恋し-悲しの誤写ともとれるが? ■と言ひて-ここで文が終止しないのは不自然である。別の本には、この次に「泣く」という語があるので、本来はそのような語があったと思われる。■うるはし-端麗な中国風の美しさの形容に用いられる。天人は中国風のイメージの服装をしていたのだろう。 ■ねたむ-現代語と異なり、「恨み怒る」こと。

かかるほどに、宵(よひ)うちすぎて、子(ね)の時ばかりに、家のあたり、昼(ひる)の明(あか)さにも過ぎて、光(ひか)りたり。望月(もちづき)の明さを十(とを)合(あは)せたるばかりにて、在(あ)る人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りて下(お)り来(き)て、土より五尺ばかり上がりたるほどに立ち連ねたり。内外(うちと)なる人の心ども、物におそはるるやうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。からうじて、思ひ起こして、弓矢をとりたてむとすれども、手に力もなくなりて、萎(な)えかかりたる、中(なか)に、心さかしき者、念(ねん)じて射(い)むとすれども、ほかざまへいきければ、荒れも戦はで、心地(ここち)ただ痴(し)れに痴(し)れて、まもりあへり。

立てる人どもは、装束(さうぞく)のきよらなること物にも似ず。飛ぶ車一つ具(ぐ)したり。羅蓋(らがい)さしたり。その中に、王(わう)とおぼしき人、家に、「みやつこまろ、まうで来(こ)」といふに、孟(たけ)く思ひつるみやつこまろも、物に酔(ゑ)ひたる心地して、うつぶしに伏(ふ)せり。

いはく、「汝(なんぢ)、幼(をさな)き人。いささかなる功徳(くどく)を、翁つくりけるによりて、汝(なんぢ)が助けにとて、かた時のほどとてくだししを、そこらの年ごろ、そこらの黄金(こがね)賜(たま)ひて、身を変へたるがごとなりにたり。かぐや姫は罪をつくりたまへりければ、かく賤(いや)しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。罪の限(かぎ)りはてぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆く。あたはぬことなり。はや返したてまつれ」といふ。

翁答へて申す、「かぐや姫をやしなひたてまつること二十余年になりぬ。『かた時』とのたまふに、あやしくなりはべりぬ。また異所(ことどころ)にかぐや姫と申す人ぞおはしますらむ」といふ。「ここにおはするかぐや姫は、重き病(やまひ)をしたまへば、えいでおはしますまじ」と申せば、その返りごとはなくて、屋の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫、穢(きたな)き所に、いかでか久しくおはせむ」といふ。立て籠めたる所の戸、すなはちあきにあきぬ。格子(かくし)どもも、人はなくしてあきぬ。媼(おうな)抱(いだ)きてゐたるかぐや姫、外(と)にいでぬ。えとどむまじければ、たださし仰(あふ)ぎて泣きをり。

たけとり心惑ひて泣き伏せる所に寄りて、かぐや姫いふ、「ここにも、心にもあらでかくまかるに、のぼらむをだに見送りたまへ」といへども、「なにしに、悲しきに、見送りたてまつらむ。我を、いかにせよとて、捨ててはのぼりたまふぞ。具して率ておはせね」と、泣きて伏せれば、御心惑ひぬ。「文を書きおきてまからむ。恋しからむをりをり、取りいでて見たまへ」とて、うち泣きて書く言葉は、

この国に生まれぬるとならば、嘆かせたてまつらむほどまで侍(はべ)らん。過ぎ別れぬること、かへすがへす本意(ほい)なくこそおぼえはべれ。 脱ぎ置く衣(きぬ)を形見(かたみ)と見たまへ。月のいでたらむ夜(よ)は、見おこせたまへ。見捨てたてまつりてまかる、空よりも落ちぬべき心地する。

と、書き置く。

天人(てんにん)の中に、持たせたる箱あり。天(あま)の羽衣入(はごろもい)れり。またあるは、不死(ふし)の薬(くすり)入れり。一人の天人いふ、「壺(つぼ)なる御薬たてまつれ。穢(きたな)き所の物きこしめしたれば、御心地悪(あ)しからむものぞ」とて、持(も)て寄りたれば、いささかなめたまひて、すこし、形見とて、脱ぎ置く衣(きぬ)に包まむとすれば、在(あ)る天人包ませず。御衣(みぞ)をとりいでて着せむとす。

その時に、かぐや姫、「しばし待て」といふ。「衣(きぬ)着せつる人は、心異(こと)になるなりといふ。物一言(ひとこと)いひ置くべきことありけり」といひて、文(ふみ)書く。天人、「遅し」と心もとながりたまふ。

かぐや姫、「物知らぬこと、なのたまひそ」とて、いみじく静かに、朝廷(おほやけ)に御文奉(たてまつ)りたまふ。あわてぬさまなり。かくあまたの人を賜(たま)ひて、とどめさせたまへど、許さぬ迎へまうで来(き)て、取り率(ゐ)てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。宮仕(みやづか)へ仕(つか)うまつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にてはべれば。心得(こころえ)ず思(おぼ)しめされつらめども。心強くうけたまはらずなりにしこと、なめげなるものに思しめしとどめられぬるなむ、心にとまりはべりぬる。 とて、

今はとて天の羽衣着るをりぞ君をあはれと思ひいでける

とて、壺(つぼ)の薬そへて、頭中将(とうのちゅうじゃう)呼び寄せて奉らす。 中将に、天人とりて伝ふ。中将とりつれば、ふと天の羽衣うち着せたてまつりつれば、翁を、いとほし、かなしと思しつることも失せぬ。この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具(ぐ)してのぼりぬ。

現代語訳

私が、この人間の国に生まれたのならば、ご両親を嘆かせ奉らぬ時まで、ずっとお仕えすることもできましょう。ほんとに去って別れてしまうことは、かえすがえ すも不本意に思われます。脱いでおく私の着物を形見としていつまでもご覧ください。月が出た夜は、私の住む月をそちらから見てください。それにしても、ご両 親を見捨て申し上げるような形で出て行ってしまうのは苦しく、空から落ちそうな気がいたします。

語句

■かかるほどに-「かかる」は「かく・ある」の詰まった形。「ほどに」は時間の経過を示す語。■子の時-午前零時を中心とした二時間。 ■望月-陰暦の十五日に出る満月。とくに仲秋の満月。■明さ-形容詞「明(あか)し」の語幹に、接尾語「さ」がついてできた名詞。「高さ」「強さ」などと同じ。■ 五尺-約150センチメートル ■内外なる人-「なる」は所在を示す。「内」には、竹取りの翁と夫婦と召使の女たちが居り、「外」には、武装した二千の軍勢と家人たちが「あけるひまもなく」守備についているのである。■物におそはるるようにて-「もの」は「物の怪(もののけ)」の「物」で、精霊をさす語。ここは、うなされるような気持ちになる意。■あひ戦はむ-「あひ」は出会っての意。ただし、接頭語とする説もある。■思ひ起こして-「思ひ」を「奮い起こして」の意。■弓矢をとり立てむ-弓を手にとって立て、それに矢をつがえようとするの意。■萎えかかりたり-「萎(な)ゆ」はヤ行下二段活用で、草木などがしおれる胃。「かかる」は物に寄りかかるの意。■心さかしきもの-「さかし」は①かしこい、②しっかりしている、などの意。ここは②の例。 ■念じて-「念ず」は、①我慢する、②祈る、などの意。ここは、①の例。 ■ほかざま-的外れの方向。そっぽ。■あれも戦はで-「あれ」は「荒れ」で荒々しく振る舞う、の意。■ただ痴れに痴れて-「ただ」は、ひたすら、ひたむきに、の意。「しれ」は、魂がうつろになってぼんやりすること。格助詞「に」を間に同じ動詞を重ねると、動詞の意味を強調する。「ただ開(あ)きに開きぬ」と同じ。■まもりあへり-「まもる」は、「目(ま)」・守(も)る」で、人が互いに見つめ合う意。守備の人々が互いに見つめ合うとする説と、天人たちを見つめるとする説があるが、ここでは前者を採った。 ■うつぶしに伏す-うつぶせになる。

■羅蓋-「羅」は薄絹。羅を円形に張り、周囲に房などをつけ、貴人の後ろからさしかける豪華な日よけ傘。 ■その中に-「その車の中に」と解く説と、「立てる人どもの中に」と解く説とがあるが、ここでは、「その車の中に」とする。■王と思しき人-月からの使者一行の長官で、月世界の王ではない。「おぼしき」といっているのは、天人界のことであるから、地上の人間にはよくわからないという意を表す。 ■まうで来-「まうで」は「参り出で」のつまった語。 ■孟く-勇猛に。たけだけしく。■汝、幼き人-「汝」と「幼き人」は同格。ともに竹取りの翁に対する呼びかけ。「幼き人」は、心をさなき愚かな人の意。一説には、「幼き人」を「かぐや姫」ととり、「幼き人(ソレヲ)…下ししを」と続く文脈だとするものもある。 ■功徳-仏教語で、善行の意。 ■下ししを-天上界から姫を下したがの意。「を」は逆説の意の接続助詞。■そこらの-「ここだ」「ここだく」「そこら」などは皆、同じ意味の副詞で、①数の多い、②程度のはなはだしい、などの意。

■天の羽衣-天上の人として天に昇るために必要な衣装。羽衣説話の根幹となる重要な小道具。■御薬たてまつれ-この「たてまつれ」は飲むことの意。かなり強い敬語。■きこしめたければ-これも強度の敬語。食べること。 ■取り率て-「取り」は、無理やり連れてゆくようすを表す。■壺の薬添えて-壺に入っている薬を手紙に添えて。■頭中将-「頭」は蔵人所の頭を兼ねた近衛中将。 ■奉らす-天皇にたてまつらせる。■天人とりて伝ふーかぐや姫の周りはすでに天人に囲まれているのである。■ふと-さっと。すばやく。■ふと天の羽衣うち着せたてまつれば-かたわらにいた天人が。■かなし-現代語と違って、「いとおしい」「不憫だ」の意。

  • かぐや姫の発見と成長
  • 貴公子たちの求婚
  • 五人の求婚者に難問を提示
  • くらもちの皇子と蓬莱の玉の枝
  • 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
  • 大伴の大納言と龍の頸の玉
  • 石上の中納言と燕の子安貝
  • かぐや姫、みかどの召しに応ぜず昇天す
  • 帝、竹取りの翁に使いを出し昇天を確かめる
  • 帝、かぐや姫を慕い、不死の薬を焼く

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