オオカミウオを釣って食べたら色々大変だった
知床で釣り上げた。そして食べた。そしたらちょっとした騒ぎが起きてしまったのだ。
大きなものは全長130センチ近く、体重は15キロもある。 ニョロニョロした魚だが、太さがあって丸太のようなボリューム感。慣れるまでは迫力に圧されて触れるのをためらってしまう。 「噛まれたら手ェ持ってかれっから気ィつけろよ」と船長。 当初の予定では記念にひと噛みされてみるつもりだったが、やっぱりやめておくことにした。ヤバいのは歯だけではない。異様に膨らんだ頬肉、すなわち咬合のための筋肉を見た瞬間、本能が「こいつにだけは噛まれたらイカン」とバンバン警報を鳴らしまくる。これ、絶対骨に影響出るやつだわ。
口を閉じても良い貌してる。水上に上げて肉が垂れているため、余計異様に見えるのかもしれない。 キープした個体の胃からはホタテの貝殻が大量に出てきた。貝を噛み砕いて食うというのは事実だった。つーか良いもん食ってんな。さすが神様。 まったくどうでもいい話だが、帰港後に港で記念写真を撮ってもらったところ、モロ逆光で誰が誰だか判別不能に。…逆にかっこいいのでこれはこれでアリ。オオカミイクラはちょっとエグい
これもまた夢見たひととき。 体表のぬめりは薄いオレンジ色。これが独特な臭みの原因となる。しっかり、これでもかと落とすべし。 やや白濁した白身。見た目は美味そう。 頭ももちろん捨てない。むしろ、今回の主役がこれだ。 肝も大きく、食べ応えがありそう。しかし、よく見ると何かくっついてる… 肝の表面にとぐろを巻いていたのはなんとアニサキス! お前オオカミウオにもつくのか。 そして、お腹の中にはもう一つのサプライズが。だがせっかくの機会なので観察を。 卵は黄色みがかったクリーム色で、粒の大きさはシロザケのイクラと同じくらい。海水魚の卵でここまで大粒なものは初めて見た。 親はこの卵を自身の体に巻きつけて保護するとも聞いたことがある。
金網に押し当てて卵をほぐしていく。 せっかくなので、この卵巣をほぐして醤油漬けを作ることにした。 オオカミウオのイクラを食べるなんて、一生に一度の経験だろう。 粒はちょうど鮭のイクラ大。 ネバネバの卵を海水に放り込むと… 粘液だけが浮いてくる! 黄色い卵をダシ醤油に 一晩漬け込む!鮭のイクラと同じように。 完成したオオカミイクラの醤油漬け。淡いオレンジ色が綺麗。 まあ、本物のイクラの味とは比べものにならないんだけども…。刺身とてんぷら、そして兜煮
さて、いよいよ身を料理していこう。 まずはやはり刺身から。 オオカミウオのてんぷら巨大ギンポということでてんぷらにも仕立ててみた。 フワリと柔らかく、やはり「フツーにおいしい」。 オオカミウオ、外見のインパクトからは想像できないようなおとなしい味わいだ。
こいつをどうするか頭である。 この(いろんな意味で)最高の素材をどう料理すべきか。 皮はプニプニでクニュクニュ。煮込んだらおいしそうだ。 料理ついでに飴色の歯をじっくり観察。最前列の数本だけは先の鈍い犬歯のような形。 上顎の天井には臼歯状の歯が敷き詰められている。 下顎にも臼歯。噛み切る、ホールドするといった機能は捨て、ほぼ噛み砕く、すり潰すという方向に特化している。この歯でホタテやケガニやバフンウニをバリバリ食べているのだろう。いいなあ。 結局、見た目がこんなに立派なのだからと丸ごと兜煮にしてしまおう。頬肉食べ放題
生前よりオオカミ感出てる気がする。 むしってもむしっても終わらない頬肉の金脈。 こんなに大きな魚の頬肉見たことある? 恐るべきはこれでほんの一欠片だということ。 ほぐれ方は鶏の胸肉のよう。 歯ごたえも凄い。鶏肉か貝柱かといった感じ。 友人らもあまりにスケールのでかい頬肉に驚きつつも「美味い!」と堪能。 食べるついでに)顎の骨も分解してみる。 歯列の周辺には小さな孔がたくさん空いている。覗き込むと小さな歯が育ちつつあったのがわかる。こうやって次々に生え変わっているのか。 オオカミウオのフライド頬肉。 繊維質ではあるが、想像していたよりはずっと柔らかく仕上がった。塩鱈を揚げたらこういう食感になるかも?また食べる機会が!
生きたオオカミウオをたくさん見られた上に、イクラ?から刺身、頭まで余すところなく味わうことができた。最高の時間だった。 オオカミウオを食べるなんて、きっと人生でただ一度の経験だろう。 生きたオオカミウオをたくさん見られた上に、イクラ?から刺身、頭まで余すところなく味わうことができた。最高の時間だった。 オオカミウオを食べるなんて、きっと人生でただ一度の経験だろう。 煮込まれたオオカミウオの肝。肝にしてはさっぱりしていて、柔らかい鶏レバーのよう。 オオカミウオの胃袋。相当長時間煮込まれたのか、もっちりと柔らかい。当然美味い。 未成熟な卵巣も柔らかく煮込まれている。イクラの醤油漬けで気になったエグみや酸味は一切感じられない。 こちらが調理前の卵巣。時季は10月下旬。これが10ヶ月もすればあの立派なオオカミ筋子に育つのだな。 粒の大きさはタラコに毛が生えた程度。余談:大騒ぎになりました
一時期こういう記事が濫造されていた。(NATURE WORLD NEWSよりキャプチャ)だが、やがてフランスの「LE MONDO」紙やイギリスの「vice motherboard」が事の真相を詳しく報道してくれたおかげで、騒ぎはおよそ収束。オオカミウオの面目は保たれた(と思う)。 まあ、まだネット上には適当なこと書きまくった記事が大量に残っているようだが。
オオカミウオに便乗して告知
最後にひとつだけお知らせです。この度、僕がデイリーポータルZに寄稿した深海魚の捕獲・試食記事をまとめた本が発売されました。書下ろしや加筆も結構あります。でもオオカミウオは別に深海魚じゃないのに、なぜこのタイミングで告知を? …あの騒ぎを見るに、なんか閲覧数が伸びそうだと思ったからです。 好き放題に騒がれて大変だったのだから、最後くらいちょっとくらい、便乗しても罰はあたらないよね?
自分の名前をローマ字で画像検索するとオオカミウオが並ぶように。オオカミウオに本体を乗っ取られた気分だ。記事が面白かったら、ぜひライターに感想をお送りください
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