中原中也 「汚れつちまつた悲しみに……」(詩集『山羊の歌』より)
汚れつちまつた悲しみに……汚れつちまつた悲しみに今日も小雪の降りかかる汚れつちまつた悲しみに今日も風さへ吹きすぎる汚れつちまつた悲しみはたとへば狐の革裘(かはごろも)汚れつちまつた悲しみは小雪のかかつてちぢこまる汚れつちまつた悲しみはなにの
切なき思ひぞ知る 我は張り詰めたる氷を愛す。 斯かかる切なき思ひを愛す。 我はその虹にじのごとく輝けるを見たり。 斯る花にあらざる花を愛す。 我は氷の奥にあるものに同感す、 その剣のごときものの中にある熱情を感ず、 我はつねに.
立原道造 「のちのおもひに」(詩集『萱草に寄す』より)のちのおもひに 夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に 水引草に風が立ち 草ひばりのうたひやまない しづまりかへつた午さがりの林道を うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた ――そして私は 見て来たものを .
八木重吉 「冬」「冬日」「霜」「お化け」「梅」(詩集『秋の瞳』『貧しき信徒』より)冬 木に眼めが生なって人を見ている 冬 悲しく投げやりな気持でいると ものに驚かない 冬をうつくしいとだけおもっている 冬日ふゆび 冬の日はうすいけれど 明るく 涙も出なくなってしまった私をいたわってくれる .
金子みすゞ 「山茶花」「郵便局の椿」「積もった雪」「淡雪」(『金子みすゞ全集』より) 山茶花 居ない居ない ばあ! 誰あやす。 風ふくおせどの 山茶花さざんかは。 居ない居ない ばあ! いつまでも、 泣き出しそうな 空あやす。 郵便局の椿 あかい椿が咲いていた、 郵便局がなつかしい。. 宮沢賢治 「永訣の朝」(『心象スケッチ 春と修羅』より)永訣の朝 けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ (*あめゆじゆとてちてけんじや) うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から みぞれはびちよびちよふつてくる .