ベクトルのノルム
ベクトルのノルム

ベクトルのノルム

ノルムの定義と基本的性質について解説します。計量ベクトル空間において、ノルム(norm)は内積により定義され、その値の範囲は負でない実数となります。ノルムは、幾何における長さの概念を一般化し、抽象的なベクトル空間に持ち込んだものといえます。

これは、 内積の定義より明らかといえます。すなわち、内積の エルミート対称性より、$\bm \cdot \bm = \overline $ が成り立つので、$\bm \cdot \bm$ は実数となります。また、内積の 正値性より、$\bm \cdot \bm \geqslant 0$ が成り立ちます。したがって、任意のベクトル $\bm$ に対して、$\bm \cdot \bm$ は負でない実数となり、常にその平方根をとることができます。

ノルムの値の範囲は負でない実数#

計量ベクトル空間の任意のベクトル $\bm$ について、次が成り立ちます。

$$ \begin \lVert \, \bm \, \rVert \geqslant 0 \end $$ 「長さ」を一般化した概念(抽象的なベクトルの長さ)#

$V = \mathbb^$ や $V = \mathbb^$ の場合を考えれば、 (7.1.5)式で与えられるノルムが、平面や空間における幾何ベクトルの長さに対応することは明らです。これを拡張して、例えば、より次元の高いベクトル空間や、複素数 $C$ 上のベクトル空間など、より抽象的なベクトル空間において定義された、「長さ」に相当する概念がノルムです。

ノルムの基本的性質#

定理 7.4(ベクトルのノルム)#

$V$ を $K$ 上の計量ベクトル空間とする。任意の $\bm, \bm \in V$ と $c \in K$ に対して次が成り立つ。

解説# ノルムの基本的性質と演算規則#

定理 7.4(ベクトルのノルム)は、ノルムの基本的な性質や演算規則を示すものです。いずれも、 ノルムの定義と 内積の定義から直ちに導くことができます。

($\text$)ノルムの正値性#

これは、 上記の考察の通り、 ノルムの定義より明らかです。 内積の正値性にならって、この性質をノルムの正値性と言います。

($\text$)ベクトルのスカラー倍のノルム#

ベクトル $\bm$ の $c$ 倍のノルムは、$\bm$ のノルムの $c$ の絶対値倍に等しくなります。

これも、 ノルムの定義と 内積の定義から直ちに導くことができますが、$c \in K$ が複素数の場合があることを考慮する必要があります。

($\text$)中線定理の一般化# 平面幾何(幾何ベクトル)における中線定理#

特に $V = \mathbb^$ とすれば、下図において、$^ + ^ = 2 \, (^ + ^)$ が成り立ちます。このとき、平行四辺形の対角線の長さの $2$ 乗の和が、隣り合う $2$ 辺の長さの $2$ 乗の和の $2$ 倍に等しいといえます。

このことは、普通、下図ような三角形に関して $^ + ^ = 2 \, (^ + ^)$ が成り立つという形で表されることが多く、$\triangle OXY$ の中線 $OM$ の長さに関する定理であるため、中線定理と呼ばれます。

一般化された中線定理の証明#

平面幾何において、中線定理は三平方の定理または余弦定理などを用いて証明することができます。しかしながら、 ($\text$)式はこれを一般のベクトルに拡張したものであり、あくまで ノルムの定義にしたがって示す必要があります。

証明# 証明の考え方#

いずれも、 ノルムの定義と 内積の定義より直ちに証明することができます。

($\text$)の証明#
  • 内積の定義より、任意の $\bm \in V$ について、$\bm \cdot \bm \in \mathbb$ かつ $\bm \cdot \bm \geqslant 0$ が成り立ちます。
    • まず、内積の エルミート対称性より、次が成り立ちます( 内積の公理($\text$))。
    $$ \begin \bm \cdot \bm = \overline \end $$ $$ \begin \bm \cdot \bm \geqslant 0 \end $$ $$ \begin \lVert \, \bm \, \rVert = \sqrt \geqslant 0 \end $$ ($\text$)の証明#
    • ノルムの定義より、次が成り立ちます。
    • ($1$) 定義の通り。
    • ($2$)内積の 共役線型性によります( 内積の公理($\text$)、 定理 7.1(内積の基本的性質)($\text^$))。
    • ここで、内積は第 $2$ 変数について共役線型である点に注意が必要です。
    • すなわち、第 $2$ 変数がベクトルのスカラー倍($d \, \bm$)であった場合、内積はもとのベクトルの内積の $\overline< \, d \, \vphantom>$ 倍になります。
    $$ \begin ^ = c \, \overline> \end $$
    • もちろん、特に、$K = \mathbb$ に限定した場合、絶対値の記号は不要となります。
    ($\text$)の証明#
    • ノルムの定義より、次が成り立ちます。
    • (1) 定義の通り。
    • (2)内積の 共役線型性によります( 内積の公理($\text$)、 定理 7.1(内積の基本的性質)($\text^$))。

    $$ \begin (\text) \, && \quad \quad && (\bm + \bm) \cdot \bm = \bm \cdot \bm + \bm \cdot \bm \\ (\text^) && \quad \quad && \bm \cdot (\bm + \bm) = \bm \cdot \bm + \bm \cdot \bm \end $$

    • すなわち、ベクトルの和の内積に関して分配法則が成り立ちます。

    まとめ#

    • $V$ を $K$ 上の計量ベクトル空間とする。任意の $\bm \in V$ に対して $\sqrt $ を $\bm$ のノルム($\text$)といい、$\lVert \, \bm \, \rVert$ と表す。
    $$ \begin \lVert \, \bm \, \rVert = \sqrt \end $$
    • 計量ベクトル空間の任意のベクトルに対して、そのノルムを求めることができ、ノルムの値は負でない実数となる。
    • ベクトルのノルムは、幾何ベクトルにおける長さの概念を一般化し、抽象的なベクトル空間に持ち込んだものといえる。