新川和江の詩「わたしを束ねないで」
新川和江さんの代表作「わたしを束ねないで」を紹介します。詩というものは不思議なもので、一読しただけで心が解放されて、かえってその詩に心を掴まれてしまうことがあります。私にとって、「わたしを束ねないで」がまさにそう。まるで自分の想いを代弁して...
わたしを束ねないで
わたしを 束 たば ねないで あらせいとうの花のように 白い 葱 ねぎ のように 束ねないでください わたしは稲穂 秋 大地が胸を焦がす 見渡すかぎりの 金色 こんじき の稲穂
わたしを 止 と めないで 標本箱の昆虫のように 高原からきた絵葉書のように 止めないでください わたしは 羽撃 はばた き こやみなく空のひろさをかいさぐっている 目には見えないつばさの音
わたしを 注 つ がないで 日常性に薄められた牛乳のように ぬるい酒のように 注がないでください わたしは海 夜 とほうもなく満ちてくる 苦い 潮 うしお ふちのない水
わたしを名付けないで 娘という名 妻という名 重々しい母という名でしつらえた座に 坐 すわ りきりにさせないでください わたしは風 りんごの木と 泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで , コンマ や . ピリオド いくつかの段落 そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章 川と同じに はてしなく流れていく 拡 ひろ がっていく 一行の詩
新川和江「わたしを束ねないで」~鑑賞・解説~
精神的な自由と身体的な言葉単なる比喩をこえて、大自然と一体になっているのですね。
外見と内面の葛藤外からの圧力が強ければ強いほど、内なる本来の自分が、声を上げそうになります。
自分のことのように思える詩「わたしを 束 たば ねないで」「わたしを 止 と めないで」「わたしを 注 つ がないで」……と、言葉を変えて順々と希求するこの言葉は、他者に訴えかけているようにも見えますが、自分に語りかけているようにも見えます。
自分らしさを取り戻すために、自分の本質に向かって呼びかけているような言葉です。
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