山村暮鳥 「春の河」「蝶々」(詩集『雲』より)
山村暮鳥 「春の河」「蝶々」(詩集『雲』より)

山村暮鳥 「春の河」「蝶々」(詩集『雲』より)

春の河たつぷりと春の河はながれてゐるのかゐないのかういてゐる藁くづのうごくのでそれとしられるおなじく春の、田舍の大きな河をみるよろこびそのよろこびをゆつたりと雲のやうにほがらかに飽かずながしてそれをまたよろこんでみてゐるおなじくたつぷりと春

三月 うすければ青くぎんいろに さくらも紅く咲くなみに 三月こな雪ふりしきる 雪かきよせて手にとれば 手にとるひまに消えにけり なにを哀しと言ひうるものぞ 君が朱なるてぶくろに 雪もうすらにとけゆけり ふるさと .

高村光太郎 「あどけない話」(詩集『智恵子抄』より)

あどけない話 智恵子は東京に空が無いといふ、 ほんとの空が見たいといふ。 私は驚いて空を見る。 桜若葉の間に在るのは、 切つても切れない むかしなじみのきれいな空だ。 どんよりけむる地平のぼかしは うすもも色の朝のしめり.

北原白秋 「糸車」(詩集『思ひ出』より)

糸車 糸車、糸車、しづかにふかき手のつむぎ、 その糸車やはらかにめぐる夕ゆふべぞわりなけれ。 金と赤との南瓜たうなすのふたつ転ころがる板の間まに、 「共同医館」の板の間に、 ひとり坐りし留守番るすばんのその媼おうなこそさみしけ.

金子みすゞ 「芝草」「げんげの葉の唄」「げんげ」「仲なおり」(『金子みすゞ全集』より)

芝草 名は芝草というけれど、 その名をよんだことはない。 それはほんとにつまらない、 みじかいくせに、そこら中、 みちの上まではみ出して、 力いっぱいりきんでも、 とても抜けない、つよい草。 げんげは紅い花がさく.

八木重吉 「春も晩く」「おもひなき哀しさ」「しづかなるながれ」「春」(詩集『秋の瞳』より)

春も 晩く 春も おそく どこともないが 大空に 水が わくのか 水が ながれるのか なんとはなく まともにはみられぬ こころだ 大空に わくのは おもたい水なのか おもひなき 哀しさ はるの日の わづ.