「孫子の兵法」の全文(現代語訳)
孫子(孫子の兵法)の全文について、現代語訳にした上で記載しています。
敵が自軍の近くにいながら平然と静まり返っているのは、彼らが占める地形の険しさを頼りにしているのである。遠くにいる敵がわざわざ攻めてくるのは、こちらが進軍することを望んでいるからである。平地に布陣しているのは、彼らの地形が有利だからである。木々がざわめくのは、敵軍が森林の中を移動して進軍しているからである。 草を覆い被せてあるのは、伏兵の存在を疑わせようとしているからで、草むらから鳥が飛び立つのは、伏兵がそこにいるからである。 獣が驚いて走り出てくるのは、潜む敵軍が奇襲攻撃をしようとしているからである。
敵の使いがへりくだっていて、守備を固めているのは、進撃をしようとしている。 敵の使いの態度が強硬で、敵軍の先鋒が侵攻してくるのは、退却の準備をしている。 隊列から軽戦車が抜け出して、側面についているのは、陣立てをしている。行き詰まっていないのに和睦を求めてくるのは、なんらかの策謀である。伝令があわただしく走り回って、各部隊を整列させているのは、決戦を決意している。敵の部隊が進んだり退いたりを繰り返しているのは、こちらを誘い出そうとしている。
兵士が杖をついて立っているのは、全軍が飢えている。 兵が水を見つけた時、真っ先に水をくんで飲むのは、その軍が飲み水に困っている。 利益がある状況で進撃してこないのは、兵が疲労している。鳥がたくさん集まっているのは、その陣はもぬけの殻である。夜に叫ぶ声がするのは、兵が臆病で怖がっている。軍営の騒がしいのは、将軍に威厳がない。旗が落ち着かないのは、軍が乱れている。役人が腹を立てているのは、軍がくたびれているからだ。 馬に兵糧米を食べさせ、兵士が軍馬を食べ、軍の鍋釜の類はみな打ち壊して、その幕舎に帰ろうとしないのは、切羽詰まった敵である。指揮官がねんごろに兵士たちを諭しているのは、みんなの心が離れている。むやみに賞を与えているのは、士気が上がらず困っている。 むやみに罰しているのは、その軍が疲れている。最初、乱暴に扱っておきながら、兵士たちの離反を恐れて下手に出るのは、考えの行き届かない極みである。わざわざ贈り物を持ってきて休戦を申し出るのは、しばらく軍を休めたいからだ。敵軍がいきり立って向かってきたのに、いつまでたっても戦端を開かず、撤退もしない時は、注意深く状況を観察すべきである。
十章:地形篇- 味方も敵も簡単に来れる場所は「四方に開けた地形」である。ここでは、敵より先に日当たりの良い高台に布陣し、補給線を確保して戦えば、有利になる。
- 行くのは簡単だが引き返すのが難しいのが「障害物が多い地形」である。ここでは、敵に備えがなければ勝てるが、備えがあれば勝てず、再び引き返すのも困難で、不利である。
- 味方も敵も不利なのが「枝分かれした地形」である。ここでは、敵の挑発に乗って進軍してはならない。軍を後退させて、敵の半数が分岐点を過ぎて進出したところを攻撃するのが有利である。
- 「道幅が狭まった地形」では、味方が先に占拠していれば、兵力を密集させておいてから、敵を待ち受ける。もし、敵が先に占拠していて、しかも敵の兵力がその隘路上に密集している場合には、そこへ攻めかかってはならない。たとえ敵が先に占領していても、敵の兵力がまばらな場合には攻めかかれ。
- 「高く険しい地形」では、味方が先に占拠していれば、必ず高地の南側に陣取って、敵を待ち受ける。もし、敵が先に占拠している場合には、軍を後退させてその場を立ち去り、攻めかかってはならない。
- 「両軍の陣地が遠く離れている」場合、戦力が互角な場合は、戦いを仕掛けるのは困難である。無理に戦えば、不利になる。
- 逃亡する者:味方と敵の勢いが同じ時、十倍の敵と戦うなら兵は逃亡する。
- 兵士たちが強いのに、管理する役人が弱いと兵の気が緩む。
- 管理する役人が強くて、兵士の弱いと兵の気持ちが萎える。
- 役人のトップが将軍の命令に従わず、敵に遭遇しても自分勝手な戦いをし、将軍もまた彼の能力を知らない場合、軍は崩れる。
- 将軍が弱腰で厳しさがなく、軍令も明確でなく、役人と兵士たちとの関係にもきまりがなく、陣立てもでたらめであれば、軍は乱れる。
- 将軍が敵情を分析できず、少ない味方で多数の敵と戦い、勢いにまさった敵を攻撃し、軍隊の先鋒に精鋭がいなければ、敗走する。
- 諸侯が自国の領内で戦うのが「散地」である。
- 敵の領内に入ったが、まだ深入りしていないのが「軽地」である。
- 味方が奪い取れば味方に有利となり、敵が奪い取れば敵に有利になるのが「争地」である。
- 味方も敵も自由に行き来できるのが「交地」である。
- 諸侯の領地が三方に接続していて、交通の要衝となるのが「衢地」である。
- 敵の領内奥深く侵入し、多数の敵の城を後方に背負っているのが「重地」である。
- 山林や沼沢地を越えて、進軍が難渋するのが「圮地」である。
- 中へ入り込む道は狭く、引き返す道は曲がりくねって遠く、敵が寡兵で味方の大部隊を攻撃できるのが「囲地」である。
- 迅速に突撃すれば生き延びるが、突撃が遅れるとたちまち全滅するのが「死地」である。
よって、散地では戦闘してはならず、軽地では立ち止まってはならない。 争地では敵が先に占拠したら攻めてはならない。 交地では全軍の隊列を切り離してはならない。衢地では他国と親交を結び、重地では物資を略奪する。圮地では速やかに通過し、囲地では策謀をめぐらせ、死地では速やかに死闘する。
兵士は、非常に危険な状況になると、もはや危険を恐れなくなる。そして、どこにも逃げ場がなくなってしまうと、決死の覚悟を固め、 敵国内に深く入り込むと、一致団結する。 窮地に追いつめられると、必死に戦う。だから、外征する軍は、兵士が自ら進んで戒め、指示しなくても期待通りに動き、約束を交わさなくても自主的に連帯する。そして、軍令がなくても規律を守る。軍隊内での占いごとを禁止して、兵士の疑念を取り除くならば、戦死するまで決して逃げ出したりはしない。
将軍の仕事は、もの静かで思慮深く、公明正大で自分をよく律しなければならない。士卒の耳目をうまくくらまして、軍の目的を知らせないようにする。 内容を様々に変え、その策謀も新しくして、兵たちに気づかれないようにする。駐屯地を転々と変え、その行路を迂回し、兵たちに推測されないようにする。軍を率いて決戦する時には、高いところへ登らせてから梯子を外すように、戻りたくても戻れないようにする。 深く敵の領土に入り込んで戦う時には、羊の群れを追いやるように自在に采配する。兵たちは追いやられてあちこちと行き来するが、どこに向かっているかは誰にもわからない。全軍の大部隊を集めて、決死の体制で危険な土地に投入するのは、将軍たる者の仕事である。九通りの地勢に応じた変化、軍の分散と集中、人情の道理について、将軍は充分に考慮しなければならない。
敵の領内に進撃した場合の原則としては、領内深く入り込めば味方は団結するが、侵入が浅ければバラバラになりがちである。本国を後にして、国境を越えて軍を進めた所は「絶地」である。 道が四方に通ずる交通の要衝は「衢地」である。 敵領内に深く進入した所が「重地」、少し入っただけの所が「軽地」である。 背後が険しくて前方が狭いのが「囲地」、 他に行き場のないのが「死地」である。
十二章:火攻篇- 兵士を焼き討ちする
- 野外に積まれている物資を焼き払う
- 輸送中の輜重隊を焼き討ちする
- 物資を保管する倉庫を焼き払う
- 敵の補給路や橋などを焼き払う
火攻めの実行には、事前に準備が整っていなければならない。 火を放つには、適当な時節がある。火を大きくするには、適切な日がある。 火をつけるのに良い時節とは、空気が乾燥している時期のことである。火を大きくするのに良い日というのは、月が、箕・壁・翼・軫の星座と重なる日のことである。これらは、風が吹く日である。
- 敵陣から火の手が上がった時は、それに呼応して攻め込む。
- 敵陣から火の手が上がっても様子が静かなら、しばらく待ってすぐに攻めてはいけない。火勢によって攻撃してよければ攻撃し、攻撃すべきでなければやめる。
- 敵陣の外から焼き討ちするのに都合が良ければ、敵陣中で火を付けるのを待たないで、適当な時を見て外から火をかける。
- 火が風上で起こっているなら、風下から攻めてはならない
- 昼間に長時間風が吹いた時、夜の風を利用した火攻めはやめる。
- 因間は、敵国の民間人に諜報活動をさせるものである。
- 内間は、敵国の官吏に諜報活動をさせるものである。
- 反間は、敵国の間者に諜報活動をさせるものである。
- 死間は、虚偽の軍事計画を作り、別の間者がその情報を敵に漏らして、敵を欺くものである。
- 生間は、敵国に潜入した後、生還して情報をもたらすものである。
討ちたいと思う軍隊・攻めたいと思う城・殺したいと思う人物については、必ず守備する将軍・ 左右の側近・ 奏聞者・ 門衛 ・宮中を守る役人の姓名をまず知った上で、味方の間諜にそれらの人物のことを詳しく調べさせる。
孫子は「孫子の兵法」とも呼ばれ、元々は中国の春秋時代に活躍した兵法家 孫武(紀元前535年〜?)が記したものとされています。孫子は 2500年以上前の書物ですが、その内容は現代でも十分通 .