オーバーハング調整とゲージの使い方|汎用ゲージから専用プロトラクターまで
オーバーハング調整とゲージの使い方|汎用ゲージから専用プロトラクターまで

オーバーハング調整とゲージの使い方|汎用ゲージから専用プロトラクターまで

オーバーハングはアライメント調整の起点です。汎用ゲージの使い方と調整のコツ、アーム専用プロトラクターの自作方法まで、初心者から上級者向けにステップで解説します。

1. ダイレクトな位相差の発生理想的な状態では、スタイラスの左右の接触面は、V字型の溝の壁に刻まれた左右のチャンネル情報を、時間的に完璧に同時に読み取ります。しかし、トラッキングエラーでスタイラスが斜めになると、左右の接触面が音溝の壁の同じ地点を同時に読み取れなくなり、片方のチャンネルの再生タイミングが、もう片方に対して時間的にわずかにズレてしまいます。これが、音像の輪郭をぼやけさせる、直接的な位相差です。

2. クロストーク増加による二次的な位相の乱れさらに、この「斜め」の状態は、左チャンネルの振動が右チャンネルの発電系に漏れてしまう現象(クロストーク)も引き起こします。重要なのは、この漏れ出た信号は、本来そのチャンネルにあるべき信号に対してごくわずかな時間的遅れを伴うことです。つまり、右チャンネルの信号に、タイミングのズレた左チャンネルの信号が混ざってしまうことで、二次的な位相の乱れが発生します。

なぜ「心地よい歪み」が生まれるのか?

実は、トラッキングエラーが引き起こす主な歪みは「二次高調波歪み」です。この歪みは倍音成分を豊かにするため、私たちの耳には一時的に「心地よい音」や「暖かい音」として聞こえることがあります。

補足 ー スタイラス形状(針先)による影響の違い

【上級編】アーム専用プロトラクターを自作してセッティングを追い込む

なぜ専用ゲージが必要なのか?

汎用ゲージは便利ですが、完璧ではありません。なぜなら、同じ9インチアームでも、メーカーやモデルによってアームの支点からスピンドルまでの距離が微妙に異なるからです。

オンラインツール「Alignment Protractor Generator」で無料作成

ここでは、オンラインツール「Alignment Protractor Generator」を使い、ご自身のアームだけのために設計された、世界に一つだけの「アークプロトラクター」を作成する手順を解説します。

STEP 1 - 数値を入力し、理論を選択する
  • Pivot to spindle distanceアームのピボットから、スピンドルまでの距離を入力します。アームの仕様書に記述されていることが多いですが、ない場合は正確に測ります。
  • ドロップダウンメニュー使用したいアライメント理論を選択します。

アライメント理論とは? オフセットアームでは、エラーがゼロになる「ヌルポイント」が2ヶ所存在します。

代表的なアライメント理論

  • Baerwald (Loefgren A) - バランス重視の万能型レコードの内周・中央・外周の3点で歪みのピークが均等になるように設計されています。迷ったら、まずこの「Baerwald」を選びましょう。
  • Stevenson - 内周特化レコードの「最内周における歪みをゼロに近づける」ことを最優先に設計されています。「クラシック音楽の壮大なフィナーレ」など、最終曲の歪みが気になる場合におすすめです。
  • Loefgren B - 平均歪みを抑えるレコード再生全域にわたる「平均的な歪み」が数学上最も少なくなるように設計されています。

レコード内周の定義(Groove Radii)について

  • IEC規格最も一般的で、推奨される規格です。60年代以降に作られた、ほぼ全てのステレオLPレコードがこの規格を基準にしています。迷ったらこれを選んでください。
  • DIN規格IECより内側の溝まで定義された、主にヨーロッパの古い規格です。50〜60年代のヨーロッパ盤(特にドイツ盤)で、レーベル面のギリギリまで音溝が刻まれているようなレコードを主に聴く場合にのみ、試す価値があります。
STEP 2 - 印刷と確認

今回は、オルトフォンの9インチアーム、AS-212Rを元に作成してみました。

  • アーム軸中心→センタースピンドル:214㎜
  • Alignment: Baerwald
  • Groove radii: IEC/RIAA
  1. 「Submit」ボタンを押してPDFを生成し、印刷します。【最重要】プリンターの設定で、必ず「倍率100%」または「実際のサイズ」を選択してください。
  2. 印刷した紙に描かれている基準スケールに定規を当て、寸法が正確か必ず確認します。
STEP 3 - アークプロトラクターを使って調整する

調整の前に ー 正しい高さで行うオーバーハング調整は、実際にレコードを再生する時と同じ高さで行うのが理想です。アームの高さ(VTA/SRA)が変わると、針先の前後位置もわずかに変化するためです。

調整手順

  1. オーバーハングを合わせるまず、針先がプロトラクターに描かれた「アーク(円弧)の線上を、始点から終点まで完璧になぞる」ように、カートリッジをヘッドシェルの中で「前後に」動かすことだけに集中して調整します。
  2. 角度を合わせるアークを完璧になぞれるようになったら、針先をどちらかの「ヌルポイントのグリッド」に置きます。
    • 理想的な場合RoksanやReedなど、メーカーが提供しているプロトラクターの場合、カートリッジの前後並行移動だけで、正しい位置の調整が可能です。
    • 調整が必要な場合しかし、今回作成のようなオリジナルのプロトラクターと、アームメーカーが想定している値が異なる場合は、カートリッジの平行移動だけでは調整できない場合もあります。まずは、平行移動で挑戦し、物理的にカートリッジをひねらないとだめな場合は、角度を付けて取り付けます。
補足 ー 高精度な市販ゲージという選択肢

鏡面仕上げで視差をなくし、アームごとに最適化されたアークが刻まれたゲージは、調整の精度と満足度をさらに高めてくれます。有名なところでは「Mint Best Tractor」や、私が利用している「The Vinyl Source」などがあります。参考: mint Best Tractor

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よくある質問(FAQ)

レコードの内周に行くと音が歪むのですが、これもオーバーハングが原因ですか?

はい、内周での歪みは、オーバーハング調整が不適切なことによるトラッキングエラーが主な原因の一つです。この記事で解説した方法で調整を追い込むことで、症状が改善する可能性は十分にあります。

ただし、それでも改善が見られない場合、もう一つの大きな原因としてインサイドフォースキャンセラーの調整が考えられます。内周に進むほどアームを内側に引き込もうとする力は強くなるため、この調整が不適切だと歪みが発生しやすくなります。

調整したら、逆に音が悪くなった気がします。
  • ゲージの印刷尺度がズレている
  • 調整後に針圧やアジマスが変化してしまった