日曜美術館「死を想(おも)え、生を想(おも)え。 写真家・藤原新也の旅」(2022.10.16)
今年78歳になる写真家の藤村新也さん(1944-)が北九州で開催される初の回顧展に備えて撮り下ろしの旅へ。司会の小野さんも、思い出の地をめぐる撮影旅行に同行しました。
2022年10月16日の日曜美術館 「死を想(おも)え、生を想(おも)え。 写真家・藤原新也の旅」
放送日時 10月16日(日) 午前9時~9時45分 再放送 10月23日(日) 午後8時~8時45分 放送局 NHK(Eテレ) 語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
出演 藤原新也 (写真家・作家) 遠藤隆二 (藤原の友人) 小野正嗣 (作家、早稲田大学教授)
藤村新也を回顧する
幼少期から16歳まで ー 門司市(福岡)、鉄輪温泉(大分)、そして上京藤原さんの実家は北九州市門司区(当時は福岡県門司市)の大きな旅館で、 明治以降海運で栄えたこの土地ではお客が絶える事はなく 店が「お客で鈴なり」になるほど繁盛したそうです。 終戦の前年に生まれた藤原さんも、ご本人いわく「金持ちのボンボン」として 不自由のない生活を送っていました。 1958年に関門国道トンネル(山口と福岡を結ぶ海底トンネル。国道2号の一部)が開通し、海運業が下火になったことで街も寂れてゆきます。
1960年には藤原家の旅館も廃業し、 一家は夜逃げするように大分県別府市の鉄輪温泉に引っ越します。 ボンボンだった藤原さんも、米運びや工事現場で働いて家計を助けながら高校に通うようになりました。 16歳という時期に、自分を取り巻く世界が一変したことを 藤原さんは「人生の分かれ目」だったといいます。
インド、そしてアジアへ「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」卒業後に上京した藤原さんはしばらく定職につかない生活を続けていましたが、 やがて絵を学んで東京藝術大学に入学しました。 絵を学んだのは「何かを変えたい」という思いがあったからだそうです。 それには、終戦間近の1歳の頃、空襲を避けて疎開した時に 母の背中で感じた不安と孤独感や、 可愛がってくれた叔母のはる子さんが結核を患って療養していた時の姿と 葬儀で見た喉仏も影響しているかも知れません。
そんな時に週刊誌『朝日グラフ』の記事「私の海外旅行」を見て 取材費が出るのでは? と思い、朝日新聞の本社に行って交渉したところ、 資金10万円とフィルム70本を支給され、現地の写真を撮ることになりました。 (この時点で、藤原さんはカメラを持っていなかったそうです) 1969年、25歳の藤原さんはインドへ。 インドをかわ切りにアジア各地を放浪する、10年以上にわたる旅の始まりでした。
求めていたものは意外とすぐ、インドの市場で見つかりました。 連れ立って歩く奥さんたちの集団を写真に収めた、 藤原さんにとって最初の1枚を撮影した時、 撮られる対象と撮る自分がそこに存在することの実感が湧いたといいます。
藤原さんがインドで撮った写真は 「“インド発見” 100日旅行」として『朝日グラフ』で特集が組まれ、 のちに処女作『印度放浪』(1972)として出版されました。
藤原さんの目を通して紹介されるアジアは、 高度経済成長期を経て飽食の時代にあった日本社会に大きな衝撃を与えました。 「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」という言葉と 人の死体を食べる犬の写真が人々に衝撃を与えた代表作 《犬食らう屍》が収録されている『メメント・モリ』は 1983年の刊行以来たくさんの読者に支持されて現在まで読み継がれています。 (2018年には21世紀エディションとして新装版が刊行されました)
藤原さんによると、写真に短い文章を添えた『メメント・モリ』の 制作時間はわずか20時間ほど。 編集者が横にいる状態で、 撮影した写真のスライドに合わせて次から次へと言葉を紡ぎ出したそうです。 追い詰められて出てきた「切羽詰まった言葉」だからこそ、 よりストレートに心を打つのかも知れません。 小野さんは現実を直視させるような写真と それに添えられたポジティブな言葉の組み合わせに 「写真と文章の拮抗」によってもたらされる均衡を感じました。
現代に「死を思う(メメント・モリ)」こと人の死体を食べる犬、火葬されている最中の遺体など 衝撃的な内容も多い『メメント・モリ』ですが、 全体を通して漂う雰囲気は静謐です。 (死体を食べている犬たちも、顔つきは餌をもらう飼い犬と変わりません)
藤原さんは「まだ生きているのは写真やってたから」といいます。 写真を撮るためにレンズを向ける時、目はおのずと肯定感情のあるものに向きます。 藤原さんにとって写真を撮ることは、善なるもの・命の輝きを追うことに通じるのです。
2014年の香港で行われた香港特別行政区政府に対する抗議デモ「雨傘運動」では 早々に現地入りして写真と言葉をインターネットで配信し、 2015年の東京都渋谷で開催されたハロウィンイベントに参加して 同調圧力の中で生きることを強いられる若者たちが自らを取り戻す場に立ち会い、 2020年にはハロウィンが行われたのと同じ街から人の姿が消えた様子を写真に収める。 藤原さんは、人の命のあり方に目を向け続けています。
藤原さんは門司港での撮影で、幼馴染の遠藤隆二さんを撮影しています。 今でも藤原さんが帰省するたびに顔を出すほど親しくしているお2人ですが、 もとは4人グループでした。 最近になってうち2人が旅立ったことで、今の姿を残しておこうと考えたんだとか。 「葬式の写真」だとおっしゃいますが、 もうしばらくはただの肖像写真にしておいても良いのではないでしょうか?
「祈り・藤原新也」展(福岡/東京)
「祈り」をキーワードに初期から最新作まで、 藤原新也の写真作品を一堂に展示する初の回顧展。 藤原さんの出身地である北九州の後、東京に巡回します。
九州展 (北九州市立文学館と北九州市立美術館分館の2館で開催)観覧料 (2会場分) 一般 1,400円 高大生 1,100円 小中生 700円
北九州市立美術館分館北九州市立美術館分館 (福岡県北九州市小倉北区室町一丁目1番1号 リバーウォーク北九州5F)
東京展(世田谷美術館)一般 1200円 65歳以上 1000円 大高生 800円 中小生 500円 未就学児 無料(予約不要) ※障害者手帳の提示で500円(小中高大生であれば無料)。介助者1名無料(予約不要) ※日時指定券の販売は11月1日から
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