変ニ短調
変ニ短調は、変ニ音を主音とする理論上の調で、調号はダブルフラット1つとフラット6つ。通常はより単純な異名同音調である嬰ハ短調が用いられます。
変ニ短調(英: D-flat minor、独: des-moll)は、西洋音楽における調の一つで、変ニ(D♭)の音を主音とする短音階によって構成されます。この調は、特に古典派以降の平均律においては、異名同音(エンハーモニック)の関係にある嬰ハ短調(C-sharp minor)と実質的に同じ音高を持つため、楽曲に用いられる際には多くの場合、調号がより単純な嬰ハ短調の形で記譜されます。そのため、変ニ短調はあくまで理論上の調として扱われることが多いのが特徴です。
変ニ自然短音階は、主音であるD♭から始まり、順にE♭、F♭、G♭、A♭、B♭♭(変ロのダブルフラット)、C♭(変ハ)の各音で構成されます。これらの音から導かれる変ニ短調の調号は、ダブルフラット1つ(B♭♭)とフラット6つ(E♭、A♭、D♭、G♭、C♭、F♭)、合わせて7つの記号を必要とします。これは、嬰ハ短調の調号がシャープ4つ(F♯、C♯、G♯、D♯)であるのと比較すると、視覚的にも記譜上も極めて複雑であり、これが嬰ハ短調が選ばれる最大の理由となっています。
また、平均律が主流の現代音楽においても、楽曲の一部での一時的な転調や、特殊な効果を狙って変ニ短調が使われるケースがあります。この場合、調号ではなく、変位する音に臨時記号を付けて表記するのが一般的です。しかし極めて稀な例として、調号の形で実際に変ニ短調が記譜された例も存在します。作曲家マックス・レーガーは、彼の著書『変調論補遺 (Supplement to the Theory of Modulation)』の中で、この複雑な調号を用いた楽譜を提示しており、理論的な可能性を示す一例となっています。