【驚愕】ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」はどう解釈すべきか?沢木耕太郎が真相に迫る:『キャパの十字架』(沢木耕太郎)
【驚愕】ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」はどう解釈すべきか?沢木耕太郎が真相に迫る:『キャパの十字架』(沢木耕太郎)

【驚愕】ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」はどう解釈すべきか?沢木耕太郎が真相に迫る:『キャパの十字架』(沢木耕太郎)

戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう

この兵士が本当に銃弾を受けた直後なのだとすれば、キャパは敵に背を向けていないとおかしい。しかし果たして、実際にそんなことが可能だろうか? 仮にキャパがその勇敢さを示して敵に背を向けていたのだとしても、タイミング良く銃撃された瞬間をカメラに収められるだろうか? 当たり前だが 当時は連射機能などなく 、シャッターを切ったら一枚ずつフィルムを巻き上げないといけない。つまり、 絶妙な一瞬を狙うしかない というわけだ。

もちろん、たまたま非常にタイミング良くこんな写真が撮れてしまった、という可能性だって無いわけではない。 キャパがそう主張すれば、一応議論は終わるはずだ 。しかしこの写真の真贋問題は、現在に至るまで長らく残っている。

何故だろうか? 撮影時キャパは22歳と若かったのだから、その後いくらでもこの写真について尋ねる機会はあったはずだ。 キャパが、この写真をいつどこでどんな風に撮ったのか明らかにしていれば、その証言が正しくても嘘でも検証できる 。

しかし キャパは生前、この写真について詳しく語ろうとしなかった という。この写真の謎に挑む者は、キャパ自身がこの写真について言及している記録の少なさに驚くことになる。

やはりそうなると、 何かやましいこと、隠したいことがあるのではないか と疑われてしまっても仕方ないだろう。

このような理由から、「『崩れ落ちる兵士』は本当に銃撃された瞬間の写真なのか?」という 真贋問題は、長らく未解決の問題として残り続ける ことになった。

そんな謎に、『深夜特急』『テロルの決算』『敗れざる者たち』などで知られる ノンフィクション作家・沢木耕太郎が挑む ことになる。

「崩れ落ちる兵士」の謎に挑むきっかけ

沢木耕太郎はもちろん、以前から「崩れ落ちる兵士」という写真の存在を知っていた。しかし 当初は、その写真に疑問を感じなかった という。では、どのようにしてこの謎に向き合うことになったのか?

このような小さな疑問を抱いたのは、なんと 本書執筆の20年以上も前 だという。それから沢木耕太郎は折りに触れこの疑問を意識に上らせることになる。

キャパが存命だった時点ですでに議論されていた謎なのだから、 何らかの結論が出ていれば耳に入ってもおかしくはないが、そんな話が聞こえてくるわけでもない 。キャパ自身はこの写真について語らなかったのだから、伝記を読んだり、あるいはキャパの他の写真を見ても分からない。

メディアでは時折、「崩れ落ちる兵士」の真贋問題の進展についてニュースが流れる。写真が撮られた場所が分かったとか、写真の人物の身元が判明した、などである。そういう情報に触れる度、彼は現地取材したいと考えるが、どうしても仕事が立て込んでいて叶わない。そしてそのまま、 小さなトゲのように自分の内側にずっと残り続けていた のだった。

20年以上もそんな状態で過ごした上、未だに謎は解かれていないのだからと、 満を持してこの謎に相対することに決めた 、というわけである。

著者は「崩れ落ちる兵士」の謎に挑む前に、 問いを整理 している。それは簡潔に、以下のようにまとめられている。

そう、 問題は「写真の兵士は本当に撃たれたのか?」だけではない 。仮にあの写真が何らかの嘘なりフェイクなりを含んでいるなら、 「『撃たれた瞬間だと誤認させるほど上手く転ぶ』なんてことが出来るのだろうか」という疑問 を解消する必要があるのだ。

ここが、 この謎に挑む著者のスタート地点 である。

本書の構成・展開について

沢 木耕太郎の「謎解き」がどのように展開され、本書がどう構成されているのか についてここでは触れていこう。

まず冒頭では、 ロバート・キャパという写真家や「崩れ落ちる兵士」という写真についての基本情報 がまとめられている。要点をざっと整理すると、

  • ロバート・キャパという写真家に関する基本情報
  • キャパと共に戦場を駆け回ったゲルダ・タローという女性との関係
  • 「崩れ落ちる兵士」の基本情報や評価
  • 「崩れ落ちる兵士」の真贋問題に関して公に知られていたこと

となる。これらが冒頭でコンパクトにまとめられ、「 調査開始時点で沢木耕太郎が理解していた様々な事実 」を知ることができる。

そこから、 沢木耕太郎自身による調査 が始まる。どのようなきっかけからどんな調査を行い、その結果どのようなことが判明し、それを元にさらにどう調査を進めたのか、という報告がなされるのだ。

しかし この調査は、想像している以上に困難 である。というのも、「人物への取材はほぼ不可能」だからだ。

キャパを含め、この写真が撮影された当時のことを知る者は既に亡くなっている。「崩れ落ちる兵士」の撮影は1936年であり、80年以上も前のことなのだ。さらに、「崩れ落ちる兵士」の真贋問題に熱心に取り組んだ者さえ、存命ではないことの方が多い。つまり、 「生きている人物から、それまで知られていなかった情報を聞き出す」という取材は叶わない のである。

しかし本書を読むと分かるが、 沢木耕太郎はとんでもない執念で調査を行い、誰も想像しなかった地平へと読者を連れて行く のである。

「調査を行う沢木耕太郎の執念

とはいえ、 当たり前と言えば当たり前 ではある。事情を一番知っているキャパは写真について語らないし、たった1枚の写真から分かる情報は少ない。物的証拠によって何かを明確に証明するなどほぼ不可能に思える状況であり、「謎解き」が憶測や推論によってしか行えないのも致し方ない部分はある。

彼は、「崩れ落ちる兵士」の写真とは直接的には関係ないとしか思えないような写真や書籍なども調べ尽くし、長い間思考を深めることで、 誰も気づかなかったある着想 を得る。そして、自身の頭に浮かんだ着想が事実だった可能性があるのかという検証を幾重にも行い、100%の確証は得られないまでも、「客観的・論理的に考えるとこれしかないのではないか」と感じさせる、 とんでもない結論にたどり着く 。

まさにそれは「とんでもない」と言っていい結論だ。何故なら 沢木耕太郎は、「世界中の人はそもそもの『問い』を間違えていたのかもしれない」と明らかにした からだ。

もちろん、「撃たれた兵士を撮影した写真なのか?」という「問い」が無くなるわけではないのだが、沢木耕太郎は、様々な調査を重ねる過程で、それよりも さらに重要かもしれない「問い」の存在に気づく ことになる。そしてその「問い」に答えようと調査を進める過程で、 本来の「問い」にも著者なりの結論を導き出せるようになる のだ。

本書を最後まで読めば、沢木耕太郎がこの時に着想した仮説には納得できるだろう。しかし、 写真からこの仮説を導き出した時には、「まさかそんなわけないだろう」と思った 。確かに、言われればそう見えなくもないが、それにしてもあまりに我田引水に過ぎるだろう、と思わざるを得ない仮説なのだ。

しかし著者は、自ら導き出した仮説を徹底的に検証し、恐らくこれが事実だったのではないか、というかなり確信めいたところまでたどり着いてしまう。 ほとんど材料がない中で、徹底した写真の観察から「誰も思いつかなかったある仮説」に思い至り、それをほぼ立証するところまで調査してしまう辺り、恐ろしい執念を感じる 。この作品は、現実を舞台にミステリ小説の謎解きを行っているようなスリリングさに溢れているのだ。

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最後に

確かに、著者のスタンスは、「キャパの嘘を暴いてやろう」というような態度ではまったくない。 純粋に「真実を知りたい」という気持ちに突き動かされている のだと理解できる。

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