青色発光ダイオード:青色を発することの意義とは
青色発光ダイオード:青色を発することの意義とは

青色発光ダイオード:青色を発することの意義とは

太陽光、炎、白熱電球、蛍光灯を人類は光源として活用してきましたが、ここに発光ダイオード(LED)が新しい光源として加わりました.発光ダイオード自体は20世紀前半に発明されたものですが、当時のLEDは赤色や黄色の光しか発する事ができません.白色光を得るために必要な青色のLEDが実現するには長い時間が必要でした.

青色LEDの大きなメリットは、可視光の中で最も大きなエネルギーを持つことです.青色の光は、青色よりエネルギーの小さい赤色、黄色、緑色の光を発する蛍光体を発光させる事が可能です.赤色と緑色の中間である黄色の光と青色の光が合わさると白色光に見えるため、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせることで白色光を実現できます.もちろん、赤色、緑色、青色のLEDを同時に使用しても白色光となりますが、その場合は電流の微妙な調整が必要となります.

LEDは寿命が長く、低消費電力で、耐衝撃性に優れ、大量生産に適しているという多彩なメリットがあります.青色LEDは世界から熱望されていましたが、製造の困難さから研究の撤退が相次ぎました.LEDには適切な半導体材料が必要なのですが、青色発光に適していて結晶成長に都合の良い材料がなかなか無かったのです.

LEDの仕組み

LEDには半導体材料が使用されます.半導体とは、電気の通りやすさを制御可能な材料です.物質中で電子は特定のエネルギー値のみをとるという特徴がありますが、半導体には電子の占めることのできないエネルギー領域(バンドギャップ)が存在します.このバンドギャップがLEDの発光特性を左右します.

半導体には、電子が過剰なn型半導体と正孔(ホール)が豊富なp型半導体があります.この両者を接合させるとpn接合となり、電流を一方向にしか流さない整流作用を示します.

ここでp→nの方向に電圧をかけると、接合部は各半導体からホールと電子が供給され、次々と対消滅を起こします.この際、半導体のバンドギャップに相当するエネルギーの電子を光として放出することで 発光 が起こります.

さて、LEDから放出される光のエネルギーは半導体のバンドギャップの大きさに対応するため、当然ながら単一に近いエネルギー(波長)を持ちます.これは赤色や緑色といった色付きの光を取り出すには便利ですが、白色光を得るには様々な波長の可視光を混ぜ合わせる必要があります.白色光を得ることでようやく照明として利用できるようになります.

青色LEDへの歩み 青色LEDに必要な材料

バンドギャップは物質に固有の値なので、多少の小細工ではバンドギャップを変化させることはできません.青色の発光に適した物質を見つけてこなくてはなりません.

1980年代、青色LEDの候補となる材料は3種類ありました.炭化ケイ素( )セレン化亜鉛( )窒化ガリウム( ) がその候補でしたが、それぞれ難点を抱えていました. は発光特性が低く、 は結晶が崩れやすいために寿命が短く、 はそもそも結晶成長が困難でした.

最終的には、 を用いることで青色LEDが実現されましたが、その達成は非常に困難なものでした.そもそも結晶成長がうまくいっていないため、なんとかしてきれいな結晶を作製する必要がありました.

GaN結晶成長への道

半導体デバイスは、基板となる結晶に原子を積層させて目的の半導体を生成します.半導体は基板の形に沿って成長していくため、半導体と基板の結晶構造や特性がなるべく近いことが求められます.基板と目的の半導体が同一の物質であれば最も好ましいですが、 の基板作製はできませんでした.なんとかして、 以外の基板を使って を積層させる必要があります.

と同種の結晶構造を持ち、合成に必要な雰囲気で安定な基板材料となるとこれまた候補が絞られます.主にサファイア( )基板が用いられましたが、サファイアと には格子の大きさに 十数%もの大きな違い があります.これほど大きさの異なる基板上にきれいな結晶を成長させるのは、 岩場に家を建てる ようなもので、非常に困難な課題でした.

実際、サファイア基板に を成長させようとすると、方位も大きさも不揃いのバラバラな結晶ができてしまいます.これを克服するには、サファイアと を接ぎ木するための何らかの緩衝層が必要と考えられました. と の組成の間をとった は第一の候補でしたが、 を使用してもなおザラザラした不均一な結晶しか得られませんでした.

名古屋大学の赤崎勇研究室に所属していた天野浩氏は、サファイア基板上に を成長させていました.ある実験の際、装置の不調により温度が上がらなかったのですが、その上に高温で の成長を続けると、鏡のように美しい半導体表面が得られたと報告しています.世界初となる 単結晶 の実現です.偶然ではありますが、1000回以上の失敗が続いた上での大発見であったと述べられています.

低温で生成する非晶質の を経由したことが、きれいな 薄膜を作成する秘訣であったといいます.

p型GaNへの道

通常の 結晶はn型の半導体です.これは本質的に が欠損していることによると言われています.LEDの発光はpn接合で起こるので、 のLEDを作製するには当然ながらp型の も必要になります.しかし、p型の の作製もまた前人未到の領域でした.

p型半導体を作るには、価電子の少ない元素を少量添加することが第一の手段です.例えば、シリコンではホウ素( )を添加してp型にします. でp型の添加元素として第一の候補は、 サイトに を導入することでしたが、p型材料は得られませんでした.

最終的に、 ではなく を使用することでp型の 半導体が実現しました.半導体の成長に加えて、電子線の照射や窒素中での熱処理を挟むことによって、伝導性に優れたp型の材料が得られます.

n型とp型が揃えば、あとは両者を接合することでpn接合ができ、LEDとなります. のままでは紫外光の発光が強いので少量の を加えることで、青色のLEDが実現しました.そして、既存の赤色や緑色のLEDと組み合わせることで白色LED、すなわち人類の新しい光源がもたらされたのです. は非常に長い寿命を持ち、数万時間に渡って使用し続けることができます.

まとめ

新たに加わった光源であるLEDは、消費電力が少なく、長寿命、かつ小型化が可能という長所を併せ持ちます. あとは高価なことだけが難点でしたが、近年では価格も下がってきており、家の照明をはじめとした様々な分野で既存の光源からの置き換えが進んでいます.

まさに「New light to illuminate the world」をもたらしました.

参考文献

化学と教育 2011 年 59 巻 9 号 p. 472-473

化学と教育 2019 年 67 巻 8 号 p. 362-367

学術の動向 2015 年 20 巻 2 号 p. 2_20-2_24

応用物理 2007 年 76 巻 8 号 p. 892-898

日本物理学会誌 2015 年 70 巻 11 号 p. 851-854