奇跡の海戦史『あきらめられていた駆逐艦・涼月生還す』
奇跡の海戦史『あきらめられていた駆逐艦・涼月生還す』

奇跡の海戦史『あきらめられていた駆逐艦・涼月生還す』

太平洋戦争中、日本海軍の駆逐艦の中には魚雷などで艦首、あるいは艦の前半部をもぎ取られてなお帰還してくる駆逐艦が意外にも多数存在しました。一見すぐ沈みそうになくとも機関が止まれば運命は決まったも同然でしたが、浮力と機関さえ生きていれば意外なしぶとさを発揮したのです。しかし制空権も制海権も失った中、激しい航空攻撃を生き延び帰還、奇跡と言われたのが大和特攻に参加した駆逐艦『涼月』でした。

1945年4月6日15時、最後の燃料補給を行った徳山燃料廠を後にした第2艦隊は沖縄へ向け出撃、19時50分には外海に出て、翌7日朝6時には第三警戒航行序列(輪形陣)へと艦列を整え、涼月は大和の左後方で対空警戒態勢を整えました。 やがて機関故障で僚艦『朝霜』が後落、戦わずして戦力が減少した第2艦隊へ12時32分からミッチャ-中将率いる米第58任務部隊から攻撃隊が飛来し、勝ち目の無い絶望的な対空戦闘が始まります。

日本へ帰ろう!行方不明となった『涼月』、帰還のため奮闘す

それどころか艦首はほとんど海面下へ沈み、中央部すら甲板から海面までわずか数十cmという状態であり、艦のバランスが少しでも崩れればそのまま沈没しかねません。 やむなく機関に後進をかけ、海図もジャイロコンパスも失って現在位置も方角も不明なので、近くにいた僚艦『初霜』へ日本への方角を問い合わせると、後進でノロノロと日本への逆戻りを始めました。

その頃、大破して大量に浸水、ほぼ海面下にあった前部弾薬庫内では、内部に留まっていた3名の乗員が決死の防水作業を行い、自らが脱出できないのを承知の上で『内部からの補強』を行って、涼月に残されたわずかな前部浮力を守っていたのです。

なお、その間に初霜へ移乗した第二水雷戦隊司令部(旗艦『矢矧』は撃沈されていた)は作戦中止命令を受け取るとともに、僚艦『冬月』へ「涼月を護衛して帰還、それが困難なら乗員を収容して涼月を撃沈処分せよ」と命令しますが、冬月は涼月を発見できず、この時から涼月は行方不明、沈没したと思われ始めます。

鳴り響く佐世保軍港のサイレン、『涼月』帰還す

しかし、もちろん涼月はまだ沈んでいませんでした。 まだ生き残っている可能性を捨てない冬月からの援護要請に応じた航空隊の捜索機が、翌4月8日朝に佐世保へ向け後進で航行中の涼月を発見。 やがて民間の漁船か、それとも漁船改造の駆潜艇なのか、不明な小型船が「われ護衛する」と手旗信号を送りながら並走し、ついに14時30分に佐世保軍港へ到着したのです。

戦後も損傷で航行困難なため復員輸送任務にはつかず、1948年に解体、船体は福岡県北九州市の若松港で固定されて『軍艦防波堤』となりますが、後の工事で完全に埋め立てられて見えなくなり当時の面影はもうありません。しかし現在でも『涼月』はそこに残っています。

2018年10月、日本海軍駆逐艦『涼月』、未だ沈まず

菅野 直人

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