スガジロウのダイビング 「どこまでも潜る 」
なぜ、潜水士テキストから減圧理論がきえてしまったのか? 潜水士テキスト、使った版は全部持っていたのだけれど、ずいぶん無くなってしまっている。本棚が狭い...
なぜ、潜水士テキストから減圧理論がきえてしまったのか? 潜水士テキスト、使った版は全部持っていたのだけれど、ずいぶん無くなってしまっている。本棚が狭いためで、そのうえ、面白がって読んでいる本もあるから、本でいる場所がなくなる。 平成5年の版まではあった。 なぜなくなったのか。 米国海軍のダイビングマニュアルには減圧理論についての記述がない。NOAA のマニュアルにもない。PADIのエンサイクロペディアでも1988年の版にはない。僕が一番よく参考にする「ダイバーのための 潜水医学テキスト Carl Edmonds 他、後藤與四之 監修・訳 1995 水中造形センター」には、減圧理論と生理学という一章を設けている。ちなみにこの本は、僕がおすすめする潜水医学の本、つまり僕のスタイルに合っているということだけれど、ダイバーのためにはすすめる。 また脱線してしまった。 減圧理論がなぜ消失したのか、潜水士テキストは、終始、ダイビングマニュアルであろうとしている。ダイビングマニュアルを目指している。米国海軍のダイビングマニュアルにはない。だから、潜水士テキストにも減圧理論は不要、と考えたのかどうかわからないけれど、ダイビングマニュアルを目指したと言うコンセプトが、潜水士テキストを支離滅裂にしてしまった。 よく、潜水士の資格は実技が伴わないから有名無実だなどという人がいるけれど、実技をカットしてしまった、多分できないとあきらめたのだろうけれど、これは大正解だった。もしも、実技課目を設けていたならば、そして、レクリェーションダイビングのインストラクターまでも含めていたならば、どうなっただろう。本腰をいれて、国が潜水士を養成する学校を作ってくれるのならば良い、(実は作ったのだが、どうにもならなくなっている。このことはまた別の機会に書きたい。)本腰を入れなかった。本腰を入れないで実技をふくめたら、どうなっていただろうか。 実技を伴わない代わりに、実学になるようにとマニュアルを目指した。スタートの時は、試行錯誤だし、でたらめでなければ、制度を普及させることはできないから、それで良かった。しかし、でたらめを改めて、国家試験にする時点でマニュアル化はあきらめて、改めなければいけなかったのだ。 米国海軍のマニュアルは、米国海軍だからあれで良いのだ。NOAAは、研究者のマニュアルだから、あれで良い。潜水士も、工事ダイバーだけを対象にしていたならば、マニュアルでも良かったと思う。対象をインストラクターとか研究者にまで広げてしまったことの是非は、言っても仕方が無い。規制の対象を広げるのは、政府の習性のようなものだ。特に厚労省は、そのスペシャリストである。対象を広げて、まとめて支離滅裂にされるのはたまらない。 PADIのマニュアルと海上保安部のマニュアルを同じにすることなどできない。海上保安部と海上自衛隊だって同じマニュアルにはできない。消防と海上保安部は、海を接しておなじような捜索とレスキューをやるけれど、マニュアルはまるで違うはずだ。潜水士テキストは、保安部もインストラクターも港湾工事ダイバーもまとめて、なお、ヘルメットとスクーバと軽便マスク式もフーカーもまとめてマニュアルにしている。 これはもう愚かというしかない。
愚かな例を挙げて行くと、しばらくブログの材料にこまらない。 意味が無いからやめようとも思ったけれど、せっかくだから重要だと思うことを書いておこう。まず、困るのは、ヘルメット式潜水器、軽便マスク式の記述が多いことだ。潜水士の準備講習の受講者100人に聞いてみる。「ヘルメット式潜水器を見たことがある人?」と聞くと、ゼロ、たまに手を挙げる人に聞くと、ダイビングショップの飾り物としてみたとかということだ。今後、潜水士の受講者、潜水士の資格を持つ人が、ヘルメット式潜水を行うチャンスはほとんどない。シーウォーカーという観光潜水器もヘルメットといって言えないことも無いが、まるでちがうものだ。このヘルメット式の説明を、延々とやらなければならない。今、用語集の編集をしているが、ヘルメット式については、大幅に削除したいと思う。しかし、潜水士テキストで扱っていると削りきれない。 もはや、炭酸ガス膨張式に救命胴衣を着けているダイバーは皆無だろうが、その使い方が出てくる。「救命胴衣は首にかけて胸に装着するのが普通で、液化炭酸ガスまたは空気ボンベを備え、緊急時には引き金を引くとボンベからガスが出て救命胴衣を膨張させ、自動的に水面まで浮上するための浮力を得ることができる。」次の改訂版では削られるだろうが、これでは、まるで水中で引き金を引いて救命胴衣で浮上するのかと思ってしまう。さいわいにして、救命胴衣そのものが消滅しているから被害者はでないだろうが。 こんなのは、枚挙の暇もない。 潜水士は潜降索を使って潜降・浮上しなければならない。これは規則である。 高気圧作業安全衛生規則 第33条 事業者は潜水業務を行う時は、潜水作業者が先行し、及び浮上するためのさがり綱を備え、これを潜水作業者に使用させなければならない。 ②事業者は、前項のさがり綱に、別表第二の「浮上」欄に掲げる水深ごとに、水深を表示する木札または布などを取り付けておかなくてはならない。 スクーバにしろヘルメット式にしろ、潜降索を使って潜水するということを決めるのは悪いことではないし、なんとか実現できるだろう。しかし、ヘルメット式の潜降索とスクーバでつかう索では、まるで違うものである。規則にまでマニュアルを持ち込まれている。 そして、テキスト本文の説明では、「潜降索を両足の間に挟み、片手に潜降索をつかむようにして、徐々に潜降する。」米国海軍の図が参考に挙げられている。僕もさんざんバンドマスクを使う潜水をしたけれど、潜降索を股に挟んで潜降したことはない。これでは、まるで山登りの懸垂降下だ。米国海軍はもしかしたら、これをやっているかもしれないが、普通はやらない。潜水士テキストが普通の本であれば、どんなことが書いてあってもかまわないが、この本のフレーズがそのまま、国家試験に出ると言うところに問題がある。 最近は試験問題を作るひとたちも賢くなって、潜水士テキストのフレーズを使わなくなってきている。それも受験生にとっては、困ったもので、テキストに書いていないことを出題されると、それが、ダイバーの常識では判断できないようなものであると、苦情がでる。