「翼をください」「学生街の喫茶店」から「水戸黄門」「ベルばら」まで。作詞家・山上路夫さんがメロディーから紡ぎ出した昭和の大ヒット曲“誕生秘話”
「翼をください」「学生街の喫茶店」から「水戸黄門」「ベルばら」まで。作詞家・山上路夫さんがメロディーから紡ぎ出した昭和の大ヒット曲“誕生秘話”

「翼をください」「学生街の喫茶店」から「水戸黄門」「ベルばら」まで。作詞家・山上路夫さんがメロディーから紡ぎ出した昭和の大ヒット曲“誕生秘話”

高度経済成長期から80年代にいたる昭和時代に、大ヒット曲の作詞を数多く手掛けてきた日本を代表する作詞家・山上路夫。「世界は二人のために」「瀬戸の花嫁」「翼をください」「お世話になりました」などの歌謡曲から、「水戸黄門」「ベルサイユのばら」などのテレビ主題歌、そして「マーブルチョコレート」「愛のスカイライン」な

山上路夫(やまがみ・みちお) :作詞家。1936年、東京都生まれ。父は『港が見える丘』『荒鷲の歌』などの作詞作曲で知られる音楽家・東辰三。雑誌『平凡』が募集した松尾和子の歌の詞に応募して当選し、作詞家デビュー。赤い鳥『翼をください』、アグネス・チャン『ひなげしの花』、梓みちよ『二人でお酒を』、天地真理『虹をわたって』、GARO『学生街の喫茶店』、由紀さおり『夜明けのスキャット』など昭和歌謡史に輝く名曲を生みだす。『世界は二人のために』『瀬戸の花嫁』『お先にどうぞ』で日本作詩大賞、『禁じられた恋』で日本レコード大賞作詩賞、日本レコードセールス大賞作詩賞など受賞多数。

「旧約聖書」をテーマにした、壮大なシングル盤と一枚のアルバム

山上路夫 (以下、山上):こちらこそ、よろしくお願いいたします。

このアルバムが発売される3ヶ月前に、同じくグループサウンズのアダムスのデビュー作『旧約聖書』( CBS・ソニー/1968 )の作詞も手がけられていますよね?

山上 :あれはね、タイガースが人気絶頂だった1968年当時、女の子向きの曲ばかり歌っていたことにフラストレーションがたまっていたそうなんですね。自分たちはもっと大人の曲、英米のロックバンドみたいな曲を歌いたいんだと。そこで、所属していた渡辺プロダクションが「だったら、そういうLPを一枚作ろう」ということで、制作が決まったらしいんですよ。彼らの新境地となるアルバムを作ろうということで、旧約聖書を土台にして、作詞・なかにし礼&作曲・すぎやまこういち、作詞・山上路夫&作曲・村井邦彦という組み合わせで5曲づつ書いたんです。作詞作曲のコンビ同士でお互いに「いい曲を作るぞ」という競争心もありました。いつも夜中までかかってレコーディングしたことをおぼえています。けっこう大々的に宣伝したんですよ、事前の打ち合わせもばっちりやってね。

山上 :そのアルバムの最後に収録されているのが「廃虚の鳩」で、この曲はLP向けに作ったんですけど、シングル盤で出すことは決まっていなかった状態で書いた曲なんです。ところが、プロダクション側が「この曲をシングルで出す」と言ったわけ。

ザ・タイガース『廃虚の鳩』シングル盤 image by: discogs

山上 :そうなんです。ところが、それまでオリコンのヒットチャートで万年1位をとっていたタイガースが、この曲で3位になっちゃったんですよ。つまり売上がちょっと落ちたことで、タイガースの人気に「翳り」が見えはじめたんです。その後、僕はナベプロの渡辺晋社長に「あいつがタイガースをぶっ壊した」と陰で怒られました。

山上 :なぜか僕だけの責任になっちゃった(笑)。

山上 :このアルバムが出た後に、加橋くんはタイガースをやめて「ヒッピー」になっちゃって、裸足のまんま羽田空港へ行って飛行機でパリへ行っちゃうんですけどね。

山上 :この後になって、グループサウンズ自体の人気はどんどん衰退してしまうんだけど、そのきっかけになったのが、あの「廃虚の鳩」という曲だったのかもしれないですね。まあ他にも要因はあっただろうし、あくまで僕の考えだけど。

山上 :そうなんです、凄かったんですよ。で、怒られました(笑)。

山上 :あまりよく覚えていないんだけど、グループサウンズの曲をいろいろ書いているときに、テーマとして「歴史的なものが何かできないか」と考えていたんですよ。そうしたら「聖書」というテーマが出てきて、そこに人間の生きざまみたいなものがいっぱい出ているから、旧約聖書をテーマにした曲を作ったら新しいんじゃないか、ということで書いたんです。

山上 :そう、あのアルバムは全部、物語ができているんですよ。ノアの方舟とか洪水とか、そういったものが出てくるストーリー立てになっているわけです。でも、女の子にこういう曲はウケなかったみたいですね。タイガースの売り方はアイドルだったんです。これは人から言われたんだけど、PTAから「ダメだ」って言われていたタイガースを、PTAが認める「良い子」にしちゃったからダメだったんだよって(笑)。今の時代になって、このアルバムは面白いって言われてるみたいね。

山上 :ワー!とかキャー!とか言われていたタイガースだから、それが教科書みたいな歌を歌わせて、水をぶっかけちゃったのかなって(笑)。ただ、あのアルバムが好きで大切にしている人は結構いるみたいですね。

山上 :ああ、アダムスの曲はまだサブスクで聴けないんですか。だったら、今回の『ソングブック』で両方とも聴けるからいいですね。

作曲家・村井邦彦とアルファミュージックのこと

山上 :やっぱり、赤い鳥、ガロ、それとブレッド&バターに書いた作品は強く印象に残っていますね。

山上 :ヒット曲じゃなくても、自分の作品を知ってもらえるというのは嬉しいし、良いことだよね。僕は作詞をするとき、いつも「時間」というものを意識して書くんですよ。「今の美しい時間をとどめたい」という。「一枚の絵」もそういう詞だったと思うんだけど、今の美しい時間を一枚の絵としてとどめたいという感じかな。実は、2023年に村井さんと「きらめき」っていう曲を作ったんですよ。その曲も「一枚の絵にしたい」みたいな歌詞ですから、この時間をとどめたいっていう思いは僕の中にずっとあるんだと思います。知らないうちにダブっちゃったけど(笑)。

山上 :ひさしぶりだね、彼もあんまり曲を書かないから(笑)。村井さんとの曲の作り方は、昔から村井さんが先に曲を書いて僕のところに送ってきて、それを聴いて僕が詞を書くというパターンです。彼から曲が送られてこないから、しばらく一緒にやってなかったけど(笑)。村井さんは『モンパルナス1934』(日本経済新聞社編集委員・吉田俊宏氏との共著、blueprint刊)という小説を2023年に上梓したんだけど、その本のテーマ曲にしようということで、その「きらめき」って曲を書いたんです。詞をつけてほしいということで、その曲が送られてきました。

山上 :いや、その小説の内容とは直接関係ないんです。歌詞の最初に海が出てくるんですよ、人の出会いのところに。村井さんの曲が、やっぱり海の音だなと思ったので、海が舞台になってます。

山上 :割とありますよ、だいたい山よりも海だね。

山上 :山は書きにくいかもなぁ。山って劇としてあまり成り立たないかもね(笑)。

山上 :そういうこと、初めて言われたよ(笑)。たしかに言われてみれば海のほうが多いかもしれない。今は時代が変わって、売れた曲、売れなかった曲というとらえ方じゃなくて、純粋に「良い曲かどうか」という価値観になったことは、作詞家として嬉しいですよね。

山上 :昭和の頃の作家は大変だったんですよ、良い曲も書かなきゃいけないし、ヒットもしないといけないという。レコード会社から責められていたから。社長から直々に「絶対に売ってくれ!」と言われたりするんですよ。「金がかかってるんだから」って(笑)。

──アルファ関連のアーティストにたくさん詞を書かれていたと思うんですが、その中で、コーラスグループの「クレスト・フォー・シンガーズ」にも提供した歌詞があったと思います。アルバム『スウィング・エイジ』(ディスコメイト/1980)に収録されていた、「ヒア!ジャマイカ」という曲があるんですが、この曲を作曲した滝沢洋一さんの自宅から、この曲のデモ・テープが出てきました。歌詞が無いので、この曲は曲先(曲が先にできて、あとから歌詞を作ること)だったことが判明しています。ちょっとお聞きしていただいてもよろしいでしょうか?(スマホの場合は、Listen in browser の文字をクリック)

山上 :覚えていないなぁ(笑)。曲先っていうのは、いろいろな作業があるんですよ。まず、その曲自体を活かさなきゃいけないというのと、その曲の中で自分の書きたい世界を構築するということですね。歌い手さんがいたならば、その歌い手さんのことも考えなきゃいけない。そして、今までにない曲にしないといけない。まあ、曲を殺しちゃったら駄目だから、活かすというのが大変ですね。

赤い鳥「翼をください」誕生秘話

山上 :あれは、僕が先に詞を書いたんです。村井邦彦に渡したら、彼が曲を書いて僕のところに戻ってきたんですけど、詞が曲に負けていたんですね。「これじゃダメだ」って、書き直そうと思ったんです。ところが、赤い鳥が三重県志摩郡浜島町(現・志摩市)の「合歓の郷(ねむのさと)」で開かれたプロ作曲家のコンテスト「合歓ポピュラーフェスティバル’70」に出場するために書いた作品だったんですけど、出演日まで3日しかなかった。3日で書き直して、赤い鳥に歌詞がわたったのがコンクール当日の2時間前だったんです。まだ、アレンジができていなくて、村井さんが楽屋でコーラスアレンジをやったらしいんです(笑)。

山上 :しかも、最初の「翼をください」は今みたいな歌い方じゃなくて、もっとロックっぽい歌い方だったんです。それはYouTubeに載っていますよ。

「学生街の喫茶店」「私鉄沿線」は曲先?詞先?

山上 :僕は曲先が80%以上でしたね。だいたいポップス系は曲先です。曲先のほうが歌詞が作りやすいんですね。

山上 :あれは曲先ですね。すぎやまこういちさんは、ああいう詞じゃない世界を思い浮かべて作曲したと思うんですよ。もうちょっとクラシックとかバロックとか、中近東みたいなイメージだったと思うんですね。それをガラッと変えちゃったんだけど(笑)。大野克夫さんがアレンジして、間奏でコブラの踊りみたいなピロピロピロという音が入ってるでしょ? やっぱり中近東という感じだったんでしょうね。たぶん驚いたと思いますよ、「学生街の喫茶店」なんていうタイトルだったから(笑)。

山上 :あれは詞先なの。あの曲はプロデュースを筒美京平さんがやったんですね。京平さんからの注文で、今回はフォークソングみたいな詞にしたいから詞を先に書いてくれって言われたんです。五郎のお兄さんの佐藤寛が作曲したんだけど、苦労したと思いますよ。フォークソングをと言われたから言葉が多いし。「あとは頼むよー」って言って渡した(笑)。

山上 :ありますね、作曲家が「これは雨の歌だからね」と言われたら、だいたい雨の歌にしますけど、何も言わなければ雨の歌にならないかもしれない(笑)。もう勝手に変えちゃう、好きなように。

山上 :僕は曲先のほうが書きやすいんですよ、リズムとか言葉の動きとかをこちらが考えなくていいから。曲が決まっているのでね。岩谷時子さんもそうね、あの人はすべて曲先。

山上 :作曲家は、あまり曲のイメージを伝えるのが得意じゃないんですよ。その曲のイメージをどうやって料理するかは作詞家の領分ですから、勝手にさせてもらいますけど(笑)。だから、どんな歌詞になるのかはできるまで分からない(笑)。そのほうがいいみたい。

山上 :村井さんはね、いつも「詞のほうはガミさんにお任せしますよ」っていう感じで曲をわたしてくれるからやりやすかったですね。ただ、彼の曲に詞をつけるのは音楽的に難しかったけど、いい詞ができますね。

天地真理「恋する夏の日」裏話

山上 :ほとんどいないなぁ。文句をいう人の曲はうまくいかないんですよ。昔、天地真理の曲を書いていたときに、「彼女は渡辺プロの白雪姫だ」って言って、汚しちゃいけないから歌詞に男を出さない でくれ、だけど男はいるということにしてくれと。最初の曲は、男を想って雨上りの並木道を一 人で歩いているという詞にしました。男は遠いところにいて、いるけど出てこない。次は、バスに乗って男に会いにいくっていう歌詞だから男は出てこない、先のほうにはいるんだけど(笑)。その次に「若葉のささやき」って曲で、若葉が萌えてきて女の子がボーイフレ ンドを想って一 人で歩いている曲にしました。これも男はそばにいない。そうしたら、ファンから葉書がきて「なんで真理ちゃんを歩かせてばっかりいるんだ」と怒られたんです(笑)。

山上 :しょうがないから、一番売れた曲ですけど「恋する夏の日」っていう曲では、軽井沢が舞台で、女の子がテニスコートで待ってて、男が自転車に乗ってやってくるという。だから一歩も歩いてないんです、歩くと怒られるから(笑)。

山上 :そうなんです、男性は離れているんですけど、自転車でやってくるから、少しは関係が「前進」しているんですよ(笑)。テニスコートまでわざわざくるんだから。当時の芸能事務所はうるさいんだよな(笑)。

山上 :こちらこそ、今日は楽しかったです。ありがとうございました。

【取材を終えて】

今年の8月2日で米寿を迎えるとは思えないほど、50年以上も前の思い出話を次から次へとお話しくださった山上さん。面白いエピソードの連続で、始終笑いの絶えない取材となりました。取材前、3月に発売されたばかりのCD5枚組BOXセット『山上路夫 ソングブック ―翼をください―』に収録されている代表曲のラインナップを見て驚きました。そこには、トワ・エ・モワ「或る日突然」、アグネス・チャン「ひなげしの花」、テレサ・テン「空港」、海原千里・万里「大阪ラプソディー」、ゴダイゴ「ガンダーラ」をはじめ、ドラマ「水戸黄門」の「あゝ人生に涙あり」、アニメ「ベルサイユのばら」のOP「薔薇は美しく散る」、アニメ「小公子セディ」の「ぼくらのセディ」まで、今もスタンダードになっている曲から私が子どもの頃にテレビでよく聴いていた曲まで、本当に名曲と呼ばれる多くの楽曲の作詞を手掛けられていたからです。歌謡曲だろうと、アニメ、CM、ドラマだろうとなんでも書くことができて多くの人々の記憶に残る、これが本当のプロの作詞家の仕事なのだと思い知らされました。偶然にも山上さんと誕生日が同じである私は、山上作品の新作を心待ちにしながら、過去の膨大なスタンダードソングたちを反芻し続けていきたいと思います。5月2日のラジオ特別番組「日本のスタンダードソングをつくった男 山上路夫の軌跡」は、音楽好きであれば必聴です。(MAG2 NEWS編集部 gyouza)

発売元 ‏ : ‎ソニー・ミュージックレーベルズ 発売日 ‏ : ‎ 2024/3/13 仕 様 ‏ : ‎CD5枚組(Blu-spec CD2)、三方背BOX入り、全120曲収録、ブックレット全176P監 修 : 濱田髙志品 番 : MHCL-30853~7 定価:14,850 円(税込) ●ご購入はコチラから

発売: ビクターエンタテインメント 監修:濱田高志 定価:3,520円 CD2枚組●詳細はコチラから

1960年代から現在に至るまで、実に60年以上にわたって数多くの“日本のスタンダードソング“を生み出し続けている作詞家・山上路夫。今年3月には集大成ともいえる『山上路夫 ソングブック -翼をください-』が発表され、改めて作品の魅力が話題となっています。

<番組概要>番組タイトル:ニッポン放送『日本のスタンダードソングをつくった男・山上路夫の軌跡』放送日時:2024年5月2日(木)11:00~13:00パーソナリティ:泉麻人、濱田髙志アシスタント:箱崎みどりアナウンサー(ニッポン放送)特別出演:山上路夫コメント出演:大野真澄、亀渕昭信、松井五郎、Myuk、村井邦彦、森山良子、由紀さおり ※五十音順企画・構成:濱田髙志●詳細はコチラから

image by: MAG2 NEWS編集部

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